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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第87章 影の島で



 小型ボートを静かに島の入り江に着けると、竜司と沙希は息を整えながら岸に上がった。

 周囲は鬱蒼とした森に囲まれ、月明かりが木々の間から零れ落ちている。

 波の音以外、何も聞こえない静寂の夜だった。


 「ここならしばらく隠れられるな」

 竜司は砂浜に腰を下ろし、沙希に視線を向けた。

 「でも……東条さんは絶対諦めない……」

 沙希の声は震えていた。

 「わかってる。でもここで計画を練り直す必要がある」

 竜司は砂に手をつき、目を閉じて深呼吸する。


 船から降ろしたコンテナを確認する。

 中にはカストリの原料と、試験データの一部が入っていた。

 竜司はそれを抱え、森の中に隠す。

 「ここならドローンやヘリに見つからない」

 沙希も手伝いながら、慎重にコンテナを埋めた。


 だが、静かな森の中に、微かに異質な気配が漂う。

 砂浜の足跡とは異なる、重くて不規則な足音──

 竜司は立ち止まり、耳を澄ます。

 「……誰か来てる」


 茂みの奥から、影がゆっくりと現れた。

 黒いコートに身を包んだ男──東条の側近の一人だった。

 目つきは冷たく、手には光学照準のライフルが握られている。

 「竜司……よくここまで逃げられたな」

 低い声が夜空に響く。


 竜司は咄嗟に沙希を庇い、手元のレンチを握った。

 「ここで終わらせるわけにはいかない!」

 影の男は笑う。

 「まだ終わらせるつもりはない。だが、お前たちの時間はもうない」


 森の奥からもう一人、エリカの犠牲を知ってか知らずか、男が現れる。

 「東条は……直接来るわけにはいかない。俺たちに任せたってことか」

 その言葉に、竜司は背筋を凍らせる。

 東条の手は常に届く──そしてその手が、今ここに迫っているのだ。


 戦闘は避けられない。

 竜司はレンチを握り直し、沙希を守るため、茂みの影に身を潜めた。

 男たちが森に足を踏み入れるたび、枝が折れる音が鋭く響く。


 突如、男たちが互いに合図を送るように手を振った。

 「奇襲だ!」

 一瞬で森の中に銃声が鳴り響く。

 竜司は砂煙と葉の間に身を伏せ、避けながら反撃する。

 レンチを振るい、茂みの枝を蹴り飛ばして相手の視界を遮る。


 沙希も小石を投げ、足元の葉を蹴って音を立て、男たちの注意を逸らす。

 連携は未熟だが、互いの存在を感じながら行動する。


 戦闘の最中、竜司は頭の中で計画を練り直す。

 「奴らを森の中で引き離す……その隙に船に戻り、カストリを確保する」

 森の地形を利用し、急斜面に誘導する作戦だ。

 男たちは重装備で動きが鈍い──ここで有利に立てる。


 銃声と枝が折れる音の中、竜司は沙希の手を握り、走り出した。

 足元の地面はぬかるみ、転倒しそうになるたび沙希が支える。

 「竜司……怖い……」

 「大丈夫だ。俺たちはまだ生きてる!」


 森の奥で、二人は一瞬息を止め、背後の足音を確認する。

 赤外線ライトが森を走り、男たちの位置が確認できる。

 竜司は低く息をつき、決意を固める。

 「ここからが本番だ……東条を止めるためには、カストリの原料を安全な場所に運ぶ必要がある」


 沙希も小さくうなずき、二人は夜の闇に溶け込みながら、島の奥深くへと進んだ。

 森の中、影は二人を追うが、光も音も最小限に抑え、次の戦いに備える。


 竜司の胸には、エリカの犠牲の重みと、東条を打ち倒す覚悟が同時に燃え上がっていた。

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