第89章 東条の影
洞窟内は静寂に包まれていた。
竜司はレンチを握りしめ、沙希の手を強く握った。
「ここから先は……奴の本体と直接対峙することになる」
沙希は小さく頷き、目に決意の光を宿す。
「でも……私たち、負けられない……」
外では、海を渡って島全体を見張る東条の部隊が静かに動く。
夜風に乗って微かな機械音が洞窟内にも届く。
竜司は耳を澄ませ、東条の手下の配置を頭に叩き込む。
突然、洞窟の奥から無線のノイズが響く。
《竜司……よくここまで逃げられたな》
低く冷たい声が洞窟内に響き渡る。
「東条……」
竜司の口元が引き締まる。
沙希も震える声で言った。
「本当に……奴、来るの?」
無線の先から、金属音と共に巨大な影が動く気配が伝わる。
「奴……直接来る……」
竜司はレンチを強く握り、呼吸を整えた。
洞窟の入り口に光が差し込み、巨大な影が姿を現す。
東条本体だ。黒いスーツに身を包み、目には冷酷な光が宿る。
「よくここまで来たな……だが、終わりだ」
その言葉と共に、手下たちも洞窟内に進入し、戦闘態勢に入る。
竜司は沙希を庇いながら前に出る。
「絶対に、負けられない!」
沙希も小さく頷き、両手でコンテナを抱える。
「竜司……行こう!」
洞窟内は混戦状態に陥る。
銃声、金属音、叫び声──すべてが反響し、方向感覚を狂わせる。
竜司はレンチを振り、迫る敵を次々と制圧する。
沙希もコンテナを抱えつつ、相手の視界を妨害しながら進む。
だが、東条はただの人間ではなかった。
戦闘中、彼の周囲には小型ドローンが飛び交い、二人を狙う。
竜司は一瞬の判断で洞窟の壁に投げつけ、ドローンを破壊する。
火花が飛び散り、洞窟内が赤く染まった。
戦いの最中、竜司は沙希に囁く。
「ここでコンテナを安全な場所に移すんだ!」
沙希は命令を理解し、洞窟の奥へと走る。
竜司はレンチを持ち、東条に立ち向かう。
東条は冷笑しながら手を上げ、無線で指示を飛ばす。
《無駄だ、奴らを止めろ!》
手下たちが再び攻撃を仕掛けてくる。
だが、その瞬間、竜司はエリカが残した小型爆発物の一つを取り出した。
「これで……!」
洞窟内に設置すると、爆発物が炸裂し、入口付近を一瞬封鎖する。
火花と煙が洞窟を満たし、敵の視界を奪う。
その隙に、沙希はコンテナを安全な位置に運び、竜司と合流する。
「できた……!」
竜司は頷き、汗と血で濡れた顔をしかめる。
「これで奴の計画は止められる……かもしれない」
だが、東条の声が再び洞窟内に響いた。
《次はもっと大きな手を打つ……逃げ場はないぞ、竜司》
竜司は拳を握り、冷たい決意を胸に刻む。
「……奴の恐怖には負けない。俺たちが生き延びる」
洞窟の中、二人はお互いの手を握り直し、次の行動を決める。
カストリの原料は確保され、追手の混乱は生じた。
だが、東条の恐ろしさは依然として残る──
次に訪れる戦いが、この島での決定的な対決になることを、竜司は直感していた。
夜の闇に包まれた洞窟の中、二人の決意はさらに固く結ばれ、東条との最終決戦への道を歩み始めた。




