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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第82章 赤い非常灯の下で



 赤色灯が脈打つように瞬き、コンクリートの通路が血の色に染まっていた。

 警報音が耳をつんざき、地下の空気は一気に緊迫する。

 竜司は自由になった両手を握りしめ、沙希の肩を支えながら走り出した。

 その背後で、エリカがサプレッサー付きの拳銃を抜き放つ。


 「右だ! 監視カメラが切れてる経路を選べ!」

 エリカの指示に従い、竜司は迷路のような通路を駆け抜ける。

 だが、すぐに背後から乾いた連射音が響いた。

 壁に弾痕が散り、火花が飛び散る。


 「伏せろ!」

 エリカが竜司を押し倒し、片膝をついて応戦する。

 彼女の射撃は正確で、三人の武装兵を瞬く間に倒した。

 しかし、エリカの顔には迷いが滲んでいた──まるで撃つたびに、自分の心を削っているように。


 非常灯の薄明かりの中、三人は階段を駆け下りた。

 「下じゃないのか? 出口は上だろ!」と竜司が叫ぶ。

 エリカは息を荒げながら首を振った。

 「上は封鎖された。唯一の脱出口は地下七階の排水トンネルよ」


 階段の踊り場を曲がった瞬間、無線機越しに東条の声が響いた。

 《……エリカ。裏切りか》

 その声は静かだが、背筋に氷を這わせる冷たさを含んでいた。


 《計画は崩れない。お前ごと、そこで沈める》

 続いて、足音ではなく、異様な「這う音」が遠くから近づいてくる。

 竜司は反射的に構えたが、その音は金属と肉の混ざったような、不気味なものだった。


 次の角を曲がった瞬間、竜司の視界に飛び込んできたのは──

 人間の形をしているが、半身が機械化された巨体だった。

 片腕は油に濡れた鋼鉄の義手、背には呼吸のように膨張するパイプ群。

 目は赤く輝き、口からは低いうなり声。


 「……お前、まさかこれが……」

 エリカが低く答える。

 「“完成体”よ。カストリと義体技術の融合。東条の切り札」


 巨体は言葉を発せず、ただ全力で突進してきた。

 竜司は沙希を庇って横に跳ぶ。

 衝撃で壁が崩れ、粉塵が舞い上がった。


 「エリカ! これを倒せるのか!」

 「無理。正面からじゃ……」

 彼女は言いかけて、すぐに方向を変えた。

 「竜司、通路の先に制御室がある。奴の制御信号を切れば動きが止まるはず」


 竜司は沙希を抱え、瓦礫を飛び越えながら制御室へ向かう。

 背後ではエリカが巨体の注意を引きつけ、弾丸を浴びせ続けていた。

 だが、銃弾は装甲に弾かれ、火花だけが散る。


 制御室の扉を蹴破ると、中には数十台のモニターと配線の塊があった。

 竜司は迷わず配電盤に飛びつき、ケーブルを引きちぎる。

 火花と同時に、巨体の動きが一瞬だけ止まった。


 「今だ、走れ!」

 エリカが叫び、三人は再び排水トンネルを目指す。

 だが、背後で金属音が響き、巨体が再起動する。

 完全には止められなかったのだ。


 トンネル入口は錆びた鉄格子で閉ざされていた。

 エリカが鍵を開けようとするが、時間がない。

 竜司は全力で蹴り飛ばし、格子を歪めた。

 冷たい水の匂いと、外の空気のわずかな気配が鼻をかすめる。


 「竜司、行け!」

 エリカが最後尾に残り、銃を構える。

 「お前は?」

 「私は奴を食い止める。ここで終わらせる」


 竜司は一瞬ためらったが、沙希の腕を引いて水の中へ飛び込む。

 背後で、銃声と金属がぶつかる轟音が響いた。


 ──そして、エリカの叫び声が消えた。

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