第80章 炎の中の真実
第80章 炎の中の真実
爆発の熱気が、夜の港を灼熱地獄に変えていた。
炎はコンテナを赤く照らし、金属が焼ける匂いが鼻を刺す。
竜司は沙希を庇いながら、倒れた鉄骨の影に身を滑り込ませた。
銃声が鋭く響く。
黒い迷彩服の部隊が、煙の中から一斉に姿を現した。
動きに無駄がなく、完全に訓練された特殊部隊だ。
──こいつら、本気で殺しに来てる。
氷室は低く罵声を吐き、コンテナの隙間から正確に狙撃を返す。
弾丸が一人の頭部を撃ち抜き、血飛沫が炎の光に散った。
「竜司、左から回れ! 天城はカバー!」
声が飛ぶが、爆風と銃声でほとんど聞き取れない。
エリカも銃を抜き、まるで自分の身を守る気などないかのように前へ出た。
その動きは、味方を守るというより、敵の配置を計測しているようだった。
竜司は一瞬迷ったが、沙希の手を握ったまま別方向へ走る。
炎と煙が視界を奪う中、二人は積み上げられたコンテナの裏へ回り込む。
だが、そこで息を呑む光景を目にした。
──そこにいたのは、黒服の隊員たちと談笑しているエリカの姿だった。
彼女は銃を下ろし、何かを短く告げると、隊員たちは竜司の方へ視線を向けた。
その目には迷いも警戒もなく、純粋な殺意だけがあった。
「やっぱり……あんたが呼んだんだな」
竜司の声は怒りで震える。
エリカは微笑み、頷きも否定もしなかった。
「竜司、誤解しないで」
彼女は静かに言う。
「私の目的は、あなたを殺すことじゃない。むしろ、生かすために“余計なもの”を消す」
「余計なもの……? 沙希もその中に入ってんのか!」
竜司の声が鋭く響く。
エリカの赤い瞳が、炎の光を反射して一瞬揺れた。
「彼女は……特殊だ。あなた以上に、この国の闇を知ってしまった」
その言葉に、沙希の肩が小さく震える。
竜司は彼女を背後に隠し、銃口をエリカへ向けた。
その瞬間、上方からワイヤーが降下し、三人の隊員が音もなく着地した。
動きは電光石火、竜司の腕を捻じ上げ、銃を奪う。
沙希が叫び、必死に竜司へ手を伸ばすが、別の隊員に押さえつけられる。
エリカはゆっくり近づき、竜司の前で膝をついた。
「竜司……あなたには、これから“私の敵”を消すために動いてもらう」
「ふざけるな……俺は誰の犬にもならねぇ」
「そう。だから契約をするの」
そう言って、彼女は懐から小瓶を取り出した。
中には黒い液体が揺れている。
「これは特殊な追跡ナノマーカー。飲めば二十四時間、私があなたの位置と生体データを完全に把握できる」
竜司は睨みつけるが、背後から押さえつけられ、身動きが取れない。
「飲まなければ、ここで二人とも死ぬわ」
短い沈黙の後、竜司は歯を食いしばり、小瓶を奪って一気に飲み干した。
喉を通る瞬間、熱い金属のような味が広がる。
エリカは微笑み、立ち上がった。
「これであなたは、私と“血の契約”を結んだ」
遠くで再び爆発が響き、炎が夜空を裂いた。
エリカは隊員たちに何か短く命令を出し、その場を離れる。
竜司と沙希は両腕を拘束され、炎の向こう側──港のさらに奥へと引きずられていった。
その道の先に、彼らの想像を超える“本当の黒幕”が待っていることを、この時はまだ誰も知らなかった。




