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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第77章 崩壊の夜



 爆風の余韻がまだ耳の奥で唸っていた。

 瓦礫と火の粉が夜空を舞い、焦げた匂いが肺を満たす。

 竜司は息を切らしながら沙希の手を強く握り、燃え上がる廃ビルから離れていった。


 「止まるな!」

 氷室が背後を振り返りもせず叫ぶ。

 火の明かりを背に、彼らは暗い路地を駆け抜けた。


 天城は最後尾で歩幅を一定に保ち、まるで追跡者の気配を探るように耳を澄ませている。

 「……妙だな」

 「何がだ」竜司が息を切らしながら問う。

 「隊長も部隊も、もう追ってこねぇ。普通なら逃げた奴は確実に仕留めるはずだ」


 氷室は足を止めず、短く答えた。

 「奴らの目的は、データの抹消だった。俺たちが死ぬのは“ついで”だ」


 路地の先で、パトカーのサイレンが響く。

 赤と青の光が壁を舐め、近づいてくる。

 氷室は反射的に手を上げて止まれの合図を出した。


 「警察も、もう動いてる……?」

 沙希が不安げに呟く。


 天城が鼻で笑う。

 「動いてる“ように見せてる”だけだ。どうせ連中とグルだ」


 氷室は脇道に入り、裏通りのシャッター前で立ち止まった。

 腰のポーチから小型の解錠器を取り出し、数秒で錠を外す。

 中は埃っぽい倉庫だった。


 「ここで一旦身を隠す」

 金属シャッターが下ろされ、わずかな隙間から街灯の光が漏れる。

 竜司は壁に背を預け、膝に手をついた。


 沙希は震える声で口を開いた。

 「……私たち、もう安全なの?」


 氷室は即答しなかった。

 かわりに天城が笑って答える。

 「安全? いや、今が一番危ねぇ」


 「どういう意味だ」竜司が低く問う。

 「奴らの計画を潰した。だから次は、俺たちの“存在”そのものを消しにくる」


 沈黙が落ちた。

 氷室は懐から濡れたメモ用紙を取り出し、机に広げた。

 それは、爆破寸前に端末から転送した座標データだった。

 「これが残った唯一の手掛かりだ」


 竜司は覗き込み、眉をひそめた。

 「……大阪湾?」

 天城は口角を上げる。

 「いいねぇ。海の上は証拠も死体も沈めやすい」


 沙希はメモを見つめたまま、ぽつりと言った。

 「私、あの建物に入る前……路地で一人の女の人を見たの。軍服みたいなコートを着てて……目が、異様に赤かった」


 氷室と天城が同時に顔を上げた。

 「……赤い目?」

 「うん……私をじっと見て、何か言おうとした。でも、すぐに人混みに消えた」


 天城の笑みがわずかに消える。

 「そいつ、たぶん“第三勢力”だ」


 氷室が腕を組む。

 「第三勢力……?」

 「表にも裏にも属さねぇ連中だ。金じゃなく、“理念”で動くやつら。しかも、厄介なことに俺たちより先に情報を掴んでる可能性が高い」


 竜司は拳を握りしめた。

 「その女が、俺たちの行動を監視してるってことか」

 天城は短く頷く。


 そのとき、倉庫の外でタイヤが砂利を踏む音がした。

 全員が息を殺し、シャッターの隙間から外を覗く。

 黒塗りのバンが一台、無灯火で路地に停まった。


 氷室が低く囁く。

 「……バンの後部、動いたな。武装してる」

 天城が口元を歪める。

 「来たか……連中、手が早ぇ」


 竜司は沙希を庇いながら、氷室に目をやった。

 「どうする」

 氷室は即答した。

 「撃ち合うのは無駄だ。奴らは装備も人数も上だ」


 天城が片手でポケットを探り、銀色の小瓶を取り出した。

 「なら、使うか……これ」

 「それは……?」

 「催眠ガス。吸えば三分は眠る。奴らに撒けば、逃げ道ができる」


 氷室が頷いた瞬間、シャッターが外から叩き破られた。

 鋼鉄が歪み、暗闇から黒い影が雪崩れ込んでくる──。

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