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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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76章 共闘の条件



 電子音が無情に時を刻む。

 04:59 → 04:58 → 04:57──

 爆発までの時間は、残酷なまでに正確だった。


 竜司は腹部の鈍痛に耐えながら立ち上がる。

 特殊部隊は完全武装で部屋を囲み、隊長は端末を弄りながら何事もなかったかのように指示を飛ばしている。

 その冷静さが、逆に異様だった。


 氷室は素早く状況を分析する。

 部屋の出口は二つ──一つはさきほど部隊が突入してきた廊下側、もう一つは奥の非常口だが、そちらはおそらく既に封鎖されている。

 外の階段まで辿り着くには、敵の包囲を突破するしかない。


 「天城、今だけは手を組むぞ」

 氷室が低く言う。


 「ほう、あの氷室が頼みごととは珍しい」

 天城は皮肉げに笑いながらも、視線だけで包囲の隙を探っている。

 彼も、この状況が遊びでは済まないことを理解していた。


 沙希は震える唇で呟いた。

 「……あのデータ、全部……消される……」


 竜司は彼女の肩に手を置き、短く言った。

 「まだ終わってない。生きて外に出せば、また方法はある」


 天城が鼻で笑う。

 「生きて、な。言うは易し、だ」


 氷室は懐から小型の閃光弾を取り出し、掌で転がした。

 「持っていたのか……」

 竜司が驚くと、氷室はわずかに口角を上げる。

 「こういう仕事は、最後の保険が命だ」


 04:15

 隊長が短く通信機に命令を送る。

 「外周、閉鎖完了。退避開始まで三分」


 退避──つまり、この部隊も爆発の前に建物を離れるつもりだ。

 氷室の脳内で、可能な行動パターンが組み立てられる。

 ──連中が退避を開始する瞬間、その混乱に乗じて突破する。


 「天城、突撃はお前が先頭だ」

 氷室が言うと、天城は眉をひそめた。

 「俺を盾代わりにする気か?」


 「違う。お前が一番速く、躊躇なく殺せる。突破口はお前が開け、俺と竜司が沙希を連れて抜ける」

 天城は一瞬だけ氷室を睨んだが、やがて薄く笑った。

 「……いいだろう。どうせ俺も死ぬ気はない」


 03:30

 氷室は竜司と視線を交わし、小さく頷く。

 「合図を出す。目を閉じろ」


 次の瞬間、氷室の手から閃光弾が床に転がった。

 閃光と爆音が炸裂し、特殊部隊の動きが一瞬だけ止まる。


 その瞬間、天城が豹のような動きで隊員に飛びかかり、喉を切り裂く。

 銃を奪い、立て続けに二人目を撃ち倒す。

 竜司は沙希の手を引き、出口に向かって駆け出した。


 だが、廊下に出た途端、別の部隊が待ち構えていた。

 銃口が一斉にこちらを向く。

 「伏せろ!」

 氷室が叫び、壁際に身を投げる。


 弾丸がコンクリートを抉り、火花が散った。

 天城は物陰から連射し、敵の動きを牽制する。

 竜司は廊下の先に、半開きのドアを見つけた。

 「こっちだ!」


 飛び込んだ部屋は古い資料室だった。

 埃の匂いと古紙の感触が鼻と手にまとわりつく。

 氷室が扉を閉め、即座にキャビネットを倒して barricade を作る。


 「時間は?」

 「……二分を切った」

 竜司の返答に、沙希が青ざめる。


 天城は窓際に近づき、外を覗いた。

 「三階か……飛び降りても骨は折れるな」

 「骨ぐらいで済めばいい」氷室が短く言う。


 01:45

 窓の外に非常階段が見える。だが途中で崩れ落ちており、下までは繋がっていない。

 その下には、瓦礫と鉄骨が突き出ていた。


 「……選択肢は一つだな」

 氷室は腰のロープを取り出し、窓枠に括りつける。

 「沙希を先に降ろす。竜司、お前が支えろ」


 天城は最後まで窓際から離れず、背後の扉を見張っていた。

 「敵が来るぞ……早くしろ」


 01:00

 沙希がロープを伝って降り始める。

 竜司がその背中を見守りながら、氷室と天城が時間を稼ぐ。

 廊下から重い足音が迫る。


 ──そして、扉が爆破され、部隊が雪崩れ込んできた。


 天城が銃を乱射し、氷室が投げナイフで一人を仕留める。

 だが、敵は止まらない。


 00:30

 竜司がロープを掴み、氷室と天城も続く。

 背後で隊長の声が響いた。

 「もう遅い。全員、道連れだ」


 00:10

 竜司の足が地面を踏んだ瞬間、建物全体が震えた。

 耳をつんざく轟音と共に、上階が炎に包まれる。

 火の粉が降り注ぎ、熱気が肌を焼く。


 氷室が竜司と沙希を庇いながら走る。

 天城は最後尾で笑っていた。

 「やっぱり面白ぇ……お前ら、まだ死ぬなよ」


 爆風が背中を押し、三人は闇の中へ飛び込んだ。

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