表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/96

第75章 崩壊のカウントダウン



 氷室の眉間に深い皺が刻まれる。

 天城が沙希の喉元に押し当てたナイフの刃先が、かすかに光を反射している。

 室内の空気は、呼吸すら音に変えるほど張り詰めていた。


 「放せ、天城」

 氷室の低い声は、冷たい刃と同じ温度だった。


 「交渉は一度きりだ、氷室。お前が銃を置けば、この娘は解放してやる」

 天城は唇の端をわずかに上げるが、その瞳は笑っていない。

 その目は、すでにこの場の全員の運命を天秤に乗せ、冷静に計算していた。


 竜司は息を整えながら二人を交互に見た。

 沙希の手はまだ端末に届く位置にある。通信は半分以上送信済みだ。

 あと数十秒で、外部に全データが流れる。


 「……天城、お前は本当に俺たちをここから生かして出すつもりはないだろ」

 竜司の声は静かだったが、その裏には揺るぎない確信があった。


 「さあ、どうかな。だが、お前らが俺の退屈を満たしてくれたことだけは確かだ」

 天城はナイフをわずかに押し込み、沙希の白い首筋に薄い赤い線を描いた。


 その瞬間、廊下から重厚な爆発音が響いた。

 壁の向こうで何かが崩れ、粉塵が天井の隙間から降ってくる。

 「……来たか」

 氷室が短く呟く。


 爆煙を突き破って現れたのは、全身防弾装備の特殊部隊だった。

 肩章には、これまで竜司たちが一度も見たことのない紋章が刻まれている。

 「誰だ……?」

 誠がうめくように問う。


 その問いに答える者はいなかった。部隊は一瞬で天城と氷室を取り囲む。


 「銃を捨てろ、全員!」

 低く機械的な声が響く。

 氷室は即座に状況を読む。

 ──この部隊は天城の私兵でも、警察でもない。第三勢力だ。


 天城の瞳が初めてわずかに揺れた。

 「……面白い。誰が俺の舞台に割り込んできた?」


 部隊の先頭に立つ黒いバイザーの男が、ヘルメット越しに冷たく告げる。

 「お前たちの芝居は、ここで終幕だ」


 その声を合図に、閃光弾が炸裂した。

 視界が真白に焼き付き、耳を突き破る爆音が鼓膜を揺らす。

 竜司は咄嗟に沙希の腕を掴み、床へ引き倒した。


 氷室は光の中でも正確に動き、近くの隊員を蹴り飛ばして銃を奪う。

 だが、奪った銃の銃口を向ける間もなく、複数のレーザーサイトが氷室の額と胸に赤い点を描いた。


 「……チッ」

 氷室は舌打ちし、ゆっくりと銃を落とした。


 一方、天城は閃光の瞬間に沙希を放し、壁際へ後退していた。

 彼はまるで、この混乱すら計算の内だったかのような落ち着きを保っている。

 「竜司……逃げるなら今だぞ」

 不敵な笑みを浮かべながらそう告げるが、その声の奥にはどこか苛立ちが混ざっていた。


 沙希は立ち上がり、震える手で端末を握り直した。

 画面には「送信完了」の文字が浮かんでいる。

 ──やった。これで全データは外部へ。


 だが、その安堵の一瞬が致命的な隙になった。

 部隊の一人が彼女を羽交い締めにし、腕ごと端末をひったくる。

 「待て、それは──!」

 竜司が叫び、追おうとした瞬間、別の兵士が銃床で彼の腹を打ち据えた。


 息が詰まり、視界が揺れる。

 氷室も天城も動けずにいる。全員がこの部隊の支配下に置かれた。


 隊長らしき男が、奪った端末を確認しながら低く笑う。

 「……これで証拠は回収した。あとは消すだけだ」


 竜司の中で、何かが音を立てて切れた。

 「ふざけるな……お前ら、何者だ!」

 怒声を上げても、返ってくるのは冷たい沈黙だけ。


 そして次の瞬間、隊長は淡々と告げた。

 「カウントダウンを始めろ。ここごと吹き飛ばす」


 電子音が部屋の隅で鳴り始め、残り時間が赤く表示される──05:00。

 崩壊のカウントダウンが、静かに進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ