表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/96

第62章 東京湾の罠


 夜の東京湾は、真夏とは思えない冷たい風が吹き抜けていた。

 埠頭にずらりと並んだコンテナが、まるで巨大な墓標のように闇に沈んでいる。

 遠くから聞こえる波の音と、金属がきしむ音だけが耳に届いた。


 竜司たちは、九条が手配した偽装トラックの荷台に潜み、指定された倉庫の近くまで運ばれた。

 荷台の薄暗い空間には、竜司、沙希、美咲、九条――異様な四人が息を潜めている。

 エンジン音が止まり、ドライバーが短く合図を送った。

 「着いたぞ。後は……知らん」


 荷台のシャッターが開くと、潮の匂いと油の匂いが混ざった空気が一気に流れ込んだ。

 竜司は先に飛び降り、あたりを素早く確認する。

 街灯の光はほとんど届かず、海霧が漂っているせいで視界は悪い。

 しかし、その奥――倉庫の扉付近には黒羽会の見張りが三人、無線機を手に立っていた。


 「こっちから行くしかない」

 九条が低く言い、倉庫脇の影に沿って進む。

 その足音は海風にかき消され、見張りには気づかれない。


 倉庫の中は、照明が最小限に抑えられ、床に積まれた木箱が幾何学的な迷路を作っていた。

 その一角――銀色のドラム缶と、ガラス瓶に入った液体が並べられている。

 「カストリ」だ。

 鼻を刺すような化学臭が、ここがただの物資置き場ではないことを告げていた。


 竜司が視線を巡らせた瞬間、奥のシャッターが開き、数台の黒塗りの高級車が入ってきた。

 降りてきたのは、佐久間と数名の幹部、そして――スーツ姿の政治家らしき男たち。

 彼らの会話ははっきりとは聞こえないが、断片的な言葉から、取引の規模が国家レベルに及ぶことが分かる。


 「証拠を押さえるわよ」

 美咲が小型カメラを構える。

 九条が竜司の耳元で囁く。

 「撮るだけじゃ駄目だ。奴らの持ち出しルートを潰す」


 竜司は頷き、倉庫奥の搬出口へと向かう。

 そこには大型トレーラーが待機しており、荷台にカストリが積み込まれつつあった。

 沙希が工具箱から取り出したのは、小型の時限式発火装置――見た目はただの金属ケースだが、仕込まれた化学薬品が反応すれば数分で炎を生み出す。


 「全部燃やすのか?」

 「ええ。取引そのものを潰す」


 だが、その瞬間――背後から銃口の冷たい感触が竜司の首筋に押し当てられた。

 「動くな」

 低い声。

 振り返ると、そこには黒羽会の用心棒・村上が立っていた。

 数日前、港で竜司を追い詰めた男だ。

 「やっぱり来やがったな。佐久間さんが言ってた通りだ」


 銃声が響く寸前、美咲が横から飛び込み、村上の腕を蹴り上げる。

 銃が床を滑り、竜司は即座にその顎を拳で打ち抜いた。

 村上は呻き声をあげて倒れ込む。


 しかし、その音で佐久間たちが気づいた。

 倉庫全体がざわめき、幹部たちが一斉に銃を構える。

 「侵入者だ! 殺せ!」

 怒号とともに銃撃戦が始まった。

 竜司と九条は木箱の陰に身を隠し、応戦する。

 美咲は低姿勢で走りながらカメラを回し続け、証拠映像を確保していく。


 沙希は搬出口へと駆け、発火装置をカストリの山に仕掛けた。

 「あと三分!」

 彼女の声が響く。


 銃弾が木箱を貫き、薬品瓶が割れて異臭が漂い始める。

 火花が一つでも触れれば、一瞬で火の海になる――竜司はそれを理解していた。

 「九条! 美咲! 撤収だ!」

 全員が搬出口へ向かうが、そこには既に佐久間が立ちはだかっていた。


 「逃がすわけねえだろ……竜司」

 佐久間の手には短機関銃。

 その引き金が引かれた瞬間、轟音が倉庫を揺らした――発火装置が作動したのだ。


 炎がカストリの山を包み、爆発的な熱が押し寄せる。

 竜司たちは咄嗟に飛び出し、港の岸壁へと転がり落ちた。


 背後で倉庫が炎に包まれ、佐久間の怒声が混ざった。

 だが、その声は次第に爆音と火災報知器の音にかき消されていった。

 海風が熱気を運び、夜の東京湾が赤く染まる。


 ――しかし竜司は知っていた。

 これで終わりではない。

 佐久間は必ず生き延び、次こそ牙を剥く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ