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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第60章 炎上する港と最後の道


 影山の身体がアスファルトに崩れ落ちると同時に、竜司はその肩を抱き起こした。

 「おい、しっかりしろ!」

 影山の胸から流れる血は、手で押さえても止まる気配がない。

 彼は薄く笑い、掠れた声で呟いた。

 「……悪いな、竜司……お前を……守りきれなかった」


 「そんなこと言うな、すぐ病院に――」

 言葉を遮るように、近くで弾丸がアスファルトを弾いた。

 佐久間の部下たちが再び銃撃を始めていた。

 炎と煙が視界を奪い、耳鳴りが鳴り止まない。


 沙希は肩の傷を押さえながら、竜司の隣で低く叫んだ。

 「竜司、今は逃げるしかない!」

 「……影山を置いていけるかよ!」

 「置くんじゃない……連れてくの! でもここに留まったら全員死ぬ!」


 その言葉に竜司は歯を食いしばる。

 影山は意識を失いかけていたが、かすかに竜司の手を握った。

 「……行け……まだ終わっちゃいない……」


 爆風が再び吹き抜け、炎が近くのコンテナを包む。

 黒羽会の構成員たちは港の出口を塞ぎ、逃げ道はほとんど残されていない。

 九条は血まみれのまま倒れ込み、美咲はその姿を見下ろしていた。

 しかし、美咲もまた、この混乱の中で優位を失っているように見えた。


 竜司は心の中で瞬時に計算する――

 最短で港を抜けるルート、佐久間との距離、そして沙希と影山の負傷状態。

 残された選択肢はひとつしかなかった。


 「沙希、影山を後ろから押さえてくれ。俺が前を開ける」

 竜司はそう言い、落ちていたアサルトライフルを拾い上げた。

 マガジンを確認すると、残弾は少ない。だが撃ち抜くには十分だ。


 煙を切り裂くように、竜司は前方の黒羽会メンバーに向けて突撃する。

 至近距離で二人を倒し、その死角から港のフェンスへ走り込む。

 背後では沙希が影山を引きずるようにしてついてきていた。


 「止めろォ!」

 佐久間の怒声と共に、新たな銃声が響く。

 竜司は身を屈めてフェンスを飛び越え、港外れの資材置き場へ滑り込んだ。

 息を切らしながら振り返ると、沙希も影山を抱えて何とかフェンスを越えてくる。


 しかし、その瞬間――影山が竜司の胸を軽く叩いた。

 「……竜司……もう……いい」

 「何言ってんだ、まだ――」

 「俺は……ここまでだ。お前と沙希だけでも……生き延びろ」


 竜司は否定しようとしたが、影山の瞳に宿る決意がそれを封じた。

 彼は手榴弾を握っていた。

 「……こいつで道を開ける。だから……行け」


 竜司はその手を強く握り返し、わずかに頷いた。

 「……必ず、ケリをつける」

 影山は微笑み、竜司と沙希を押し出すように背を向けた。


 竜司と沙希が資材置き場を抜けた瞬間、背後で眩い閃光が弾けた。

 轟音と衝撃波が地面を揺らし、熱風が背中を焼く。

 影山は最後まで港の入口を守り抜き、その命を燃やし尽くしたのだ。


 沙希は涙をこらえながら走り続けた。

 「……行こう、竜司。影山さんの分まで」

 竜司は何も答えず、ただ炎上する港を一度だけ振り返った。

 煙の向こうに佐久間の影が見えた気がしたが、次の瞬間には視界が黒く塗りつぶされた。


 港を離れた二人の前には、まだ夜の街が広がっていた。

 警察のサイレンが遠くで鳴り響き、空気は焦げた匂いで満ちている。

 竜司は心の奥底で誓った――影山の死を無駄にはしない、と。

 そして佐久間、美咲、九条……すべてに決着をつける、その時まで。


 闇の中、二人は無言で歩き続けた。

 その背後で、港の炎はまだ燃え盛り、夜空を赤く染めていた――。

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