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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第57章 爆炎の残響


 港の闇を切り裂くように、轟音と閃光が響き渡った。

 竜司が投げたグレネードは九条の高速艇の中央付近で炸裂し、白い水柱が夜空まで立ち上がる。

 爆風が周囲の海面を激しく揺らし、波しぶきが防波堤の上にまで飛び散った。


 沙希は思わず目を覆ったが、その指の隙間から見えたのは――炎に包まれ、傾く高速艇の姿だった。

 「竜司!」

 防波堤の縁で、彼女は叫ぶ。


 竜司は脇腹の激痛に顔を歪めながらも、必死に泳ぎ防波堤へと手を伸ばした。

 カナと影山が身を乗り出し、彼の腕を掴んで引き上げる。

 海水と血にまみれた竜司は、石畳の上に転がり込み、荒い呼吸を繰り返した。


 「大丈夫か?」

 影山の声に、竜司は苦笑を返す。

 「……あれだけやれば、九条も終わりだ」


 しかし、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、港の奥から低いエンジン音が響いてきた。

 沙希が恐る恐る振り返る。


 炎と煙の中から、新たな船影が現れた。

 それは黒い塗装を施された中型艇――九条の予備艇だった。

 操縦席には、肩から血を流しながらも狂気の笑みを浮かべる九条が立っていた。


 「竜司……死ぬのは、お前が先か、あの女どもが先かだ」


 九条は手を上げ、部下たちに合図する。

 中型艇の側面ハッチが開き、黒服の男たちが次々と銃を構えた。

 その数、少なくとも十人以上。


 影山が即座に竜司の肩を抱き、低く囁いた。

 「港の裏通りに車を停めてある。走るぞ」

 竜司は頷き、沙希とカナを前に走らせた。

 背後で銃声が鳴り響き、アスファルトに弾丸が弾け飛ぶ。


 「くそっ……!」

 影山が腰の拳銃で応戦し、数発の弾丸が港の鉄柵に跳ねた。

 しかし敵の数は多く、じりじりと距離を詰めてくる。


 逃げ道の途中、倉庫のシャッターが半開きになっているのを竜司が見つけた。

 「中に入れ!」

 全員が倉庫に飛び込み、影山が即座にシャッターを引き下ろす。

 外から銃撃が続き、鉄板が鈍い音を立てて震えた。


 「長くは持たない……」

 影山の額には汗が滲んでいる。

 竜司は周囲を見回し、倉庫奥に積まれた古い木箱を目にした。

 その中身は、港湾労働者が使っていた工具や古びた信号弾だった。


 「これだ……」

 竜司は信号弾を手に取り、発射装置に装填する。

 「これを撃てば、一時的に目くらましになる。外に出たら、全員一気に車まで走れ」


 沙希が不安げに竜司を見る。

 「でも、あなたの傷は……」

 「心配するな。こんなもん、九条を止めるための代償だ」


 その言葉と同時に、竜司はシャッターの一部を開け、真上へ向けて信号弾を発射した。

 白く眩い光が夜空を裂き、港全体を昼のように照らす。


 敵が一瞬ひるんだ隙に、竜司たちは倉庫から飛び出した。

 影山が先頭で撃ちながら進み、沙希とカナがその後ろを走る。

 竜司は最後尾で銃を構え、追撃してくる黒服を牽制した。


 車まであと数十メートル――

 だが、その前に九条の影が立ちはだかった。

 彼は片手で銃を構え、もう片方の手で血の滴る肩を押さえている。


 「ここで終わりだ、竜司」


 時間が止まったような瞬間、竜司は銃口を九条に向けた。

 九条も同じく、竜司に狙いを定める。

 互いの距離は十歩もない。


 「……撃てよ」

 九条の口元が歪む。

 次の瞬間、銃声が重なった。


 どちらの弾丸が相手を貫いたのか――誰にもわからなかった。



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