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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第55章 港の亡霊


 夜の港は、まるで息を潜めた巨大な獣のように沈黙していた。

 倉庫の影に身を隠す竜司たち四人は、互いに荒い息を整えながら周囲を伺った。

 遠くでは、コンテナクレーンがゆっくりと腕を動かし、船の甲板に積み荷を降ろしている。

 それ以外は、潮騒と風の音しか聞こえなかった。


 「九条は必ず追ってくる。港は逃げ場じゃねぇ、むしろ罠かもしれん」

 影山の低い声に、沙希が不安げに頷いた。

 「……じゃあ、どうするの?」

 「船で出るしかない」竜司は短く答えた。「だが、正規のルートは全部封鎖されてるはずだ」


 カナが周囲を見回し、指差した。

 「こっち、漁師の小型船がある。あれなら目立たない」


 四人は物音を立てないように足早に船へ向かう。

 だが途中、足元でガラスの破片を踏み、乾いた音が響いた。

 ――その瞬間、港の暗闇からライトが一斉に点灯した。


 「見つけたぞ!」

 拡声器から九条の声が響く。

 「港を封鎖しろ。逃げ道はない」


 ライトに照らされた影の中、黒い装備の私設兵たちが倉庫の屋根や桟橋に散開していた。

 海からも二隻の高速艇が近づき、包囲は瞬く間に完成する。


 「影山!」

 竜司の声に応じ、影山が即座にハンドガンを抜く。

 しかし、撃つよりも先に海上から銃声が響き、桟橋の手すりが弾丸で削られた。

 「数が多すぎる……正面突破は無理だ」影山が歯噛みする。


 竜司は迷わずバッグから黒い円筒を取り出した。

 ――煙幕弾だ。

 ピンを引き抜き、足元に転がすと、瞬く間に白い煙が辺りを覆った。


 「走れ!」


 視界を失った兵たちの混乱を利用し、四人はコンテナの間を駆け抜けた。

 だが煙の向こうから、九条の落ち着いた声が聞こえる。

 「逃げ場はないと言ったはずだ」


 次の瞬間、頭上で重い衝撃音が響き、巨大なコンテナがワイヤーを切られて落下した。

 竜司は反射的に沙希を突き飛ばし、間一髪で潰されるのを免れる。

 地面に衝撃波が走り、埃と鉄臭い空気が舞い上がった。


 「九条……!」竜司の声は怒りに震えていた。


 混乱の中、カナが叫んだ。

 「こっち、排水トンネルがある! 海に直結してる!」


 四人はそこへ駆け込み、滑るように暗い通路へと身を潜める。

 背後からは銃声と九条の命令が追ってきた。

 「逃がすな! 奴らを海に追い込め!」


 排水トンネルは胸までの高さの海水が流れ込み、冷たさが骨にまで染みた。

 それでも進まなければ捕まる。

 竜司は先頭で進み、後ろを振り返った。沙希は唇を噛み、影山は濡れた銃を握りしめ、カナは必死に息を整えている。


 出口が近づくと、潮の音が大きくなった。

 だが同時に、外からプロペラ音が聞こえる――九条の高速艇が待ち構えているのだ。


 竜司は短く決断した。

 「出口は俺が引きつける。お前らは右側の排水管から潜って港外に出ろ」

 「馬鹿言うな!」沙希が叫ぶ。

 「今は時間を稼ぐしかねぇ。行け!」


 言い終えると、竜司はバッグを抱えて海面に飛び出した。

 夜空と港の光が一瞬にして水中の闇に呑まれる。


 水面から顔を出した瞬間、九条の声が響いた。

 「やはり来たな、竜司」


 高速艇のライトが竜司を照らし、銃口が一斉に向けられる。

 だが、竜司の表情は恐怖ではなく、挑戦的な笑みだった。


 ――まだ、この勝負は終わっていない。

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