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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第53章 銃声の交差


 煙の充満する地下通路。

 視界は白く濁り、目と喉を刺す刺激臭がまだ残っている。

 竜司は咳き込みながらも、沙希と背中合わせになって周囲を警戒した。


 「九条は?」

 影山が低く問う。


 沙希が息を整えながら答える。

 「逃げてない……まだこの階にいる。金庫を守ってるはず」


 その時、遠くから乾いた銃声が響いた。

 天井の蛍光灯が弾丸を受け、火花と共に暗闇が広がる。

 次の瞬間、通路の奥から黒い影が滑り出てきた――九条だ。


 彼は左手に拳銃、右手に短い消音付きのサブマシンガンを構え、迷いなく引き金を引く。

 弾丸が壁を削り、コンクリート片が飛び散った。


 「散開!」

 竜司が叫び、影山とカナが左右に飛び込む。


 九条の動きは警察時代そのままの鋭さだった。

 物陰に隠れ、相手の反撃が止んだ瞬間に位置を変える――まるで地下の迷路を熟知しているかのようだ。


 竜司は壁際を這いながら、カナに視線を送った。

 彼女は爆薬入りのケースを胸に抱え、小さく頷く。

 「九条を引きつけて。金庫に仕掛ける時間を稼ぐ」


 竜司は深く息を吸い、反対側の通路へ飛び出した。

 九条の視線が一瞬そちらに向く。

 その隙にカナが金庫室へ走った。


 金庫室の扉は厚い鋼鉄製で、電子ロックが唸るように稼働している。

 カナは素早く爆薬を扉の蝶番付近に貼り付け、配線を接続する。

 「……あと二分」


 一方、竜司と影山は九条の射撃に押され、壁の影に身を隠していた。

 九条の弾は確実に追い詰めてくる。

 「逃げ場がねぇぞ、竜司!」影山が吐き捨てるように叫んだ。


 その時、沙希が別の通路から回り込み、九条の背後を取った。

 「動くな!」

 銃口を向けたが、九条は即座に体をひねり、沙希の腕を蹴り上げた。

 銃が床に落ち、九条の手が沙希の首元を掴む。


 竜司の胸が一瞬、凍りついた。

 だが次の瞬間、影山が飛び出し、九条の横腹に体当たりを食らわせた。

 「ぐっ……!」

 九条が僅かによろめく。その隙に沙希がナイフを抜き、彼の太ももに突き立てた。


 九条は呻きながら後退し、血の滲む脚を引きずりつつ再び銃を構える。

 しかし――

 「時間切れよ!」

 カナの声と同時に、金庫扉付近が白い閃光に包まれた。


 爆風が通路を駆け抜け、九条の立っていた場所まで衝撃が届く。

 彼はとっさに身を低くしたが、衝撃で銃を手放した。


 金庫室の中からは、冷たい空気と共に、無数の書類ケースと黒い鞄が現れる。

 竜司は素早く中へ入り、一つのケースを開いた。

 中には札束、海外のパスポート、そして大量のUSBメモリが詰まっていた。


 「これだ……佐伯の心臓部」

 竜司の声が低く震える。


 だが安堵の暇はなかった。

 九条が立ち上がり、非常ベルを叩きつけたのだ。


 けたたましい警報音が地下に響き渡る。

 赤色灯が回転し、天井のスプリンクラーからは細かい水滴が降り注いだ。


 「警備部隊が来る! 急げ!」

 沙希が叫び、竜司たちは金庫の中身をバッグに詰め込む。


 九条は脚を引きずりながらも、非常用通路へ消えた。

 「逃がすな!」影山が追おうとしたが、竜司が首を振る。

 「今は情報を持ち出す方が先だ」


 港へ戻る水路までの道は、すでに赤い光と足音に包囲され始めていた。

 しかし竜司の胸には、確かな手応えがあった。

 ――これで佐伯を追い詰められる。


 ただ、心の片隅で不吉な予感が消えない。

 九条が最後に残した視線――あれは敗北の顔ではなかった。



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