第50章 火薬の匂い
倉庫の内部は一瞬で修羅場と化した。
銃口がこちらに向けられ、金属のスライドが引かれる音が同時に重なった。
竜司は本能的に拓真を突き飛ばし、近くの木箱の影に身を隠す。
「動くな! 一歩でも動いたら撃つ!」
堂島蓮の声は鋭く、まるで刃物のように耳を切り裂いた。
沙希は両手を挙げて立ち尽くしていたが、その表情には恐怖よりも冷静さがあった。
竜司は混乱しながらも問い詰める。
「お前……何者だ? なんでここに――」
「話してる暇ない!」沙希が叫ぶ。
その瞬間、倉庫の奥から爆音が響き、鉄扉が吹き飛んだ。
煙の中から現れたのは、黒いマスクをつけた数人の男たち。
彼らは堂島の部下に向けて容赦なく発砲し、あっという間に倉庫内は銃声と悲鳴に包まれる。
竜司は耳を塞ぎながら、沙希に引っ張られるまま出口へ走った。
「こっち!」
沙希は迷いなく隣の通路を選び、古びた非常口を蹴破る。
外に出た瞬間、海風に混じって焦げた火薬の匂いが鼻を突いた。
拓真が息を切らしながら問う。
「さっきの連中……誰だ?」
「堂島の敵。だけど、あんたらの味方じゃない」
沙希は短く答える。
「佐伯は堂島を捕まえるつもりなんか最初からなかった。狙いは堂島の持ってる“リスト”よ」
「リスト……?」竜司が眉をひそめる。
「全国の高校に薬を流してるルートと関係者名。あれがあれば、誰を陥れるか自由自在」
竜司の頭の中で点と点が繋がった。
佐伯はただの依頼主ではなく、裏社会の勢力図を塗り替えるために自分たちを駒に使っていたのだ。
しかし考える暇もなく、背後から怒号が響く。
「見つけたぞ!」
振り返ると、堂島が血の滲んだシャツ姿で立っていた。
手には黒光りする拳銃――そして、その銃口はまっすぐ竜司の額を狙っている。
「てめえら……佐伯の犬か」
堂島の声は低く、殺意に満ちていた。
「だったらここで死ね」
引き金が引かれる――その瞬間、沙希が竜司を突き飛ばした。
耳元で乾いた銃声が鳴り、夜の港に火花が散った。
沙希の肩口から鮮血が噴き出す。
「沙希!」竜司は叫び、彼女を抱き寄せる。
堂島が再び銃を構えたその時、背後から別の銃声が響き、堂島の手首が弾かれた。
そこに立っていたのは――佐伯だった。
「間一髪だな」
佐伯は薄く笑いながら、ゆっくり堂島に歩み寄る。
「よくやった、坊主ども。これでリストは俺のもんだ」
竜司は怒りを抑えきれず叫ぶ。
「俺たちはお前の道具じゃない!」
だが佐伯は鼻で笑い、倒れ込む堂島のポケットから小さなUSBを抜き取った。
その目は、勝者のそれだった。
「坊主、世の中は勝ったやつだけが正義を語れるんだ」
佐伯はそう言い残し、黒塗りの車に乗り込み夜の闇へ消えた。
竜司は沙希の傷口を押さえながら、港の遠くに消えていくテールランプを見つめた。
その胸の奥に、燃えるような復讐心が芽生えていた。




