第40章 盗まれた記録
夏の夜、商店街裏のコインランドリー。
竜司は、半分乾ききったユニフォームを抱えながら、向かいの中古スマホ修理店に目をやった。
店先のシャッターは半分開いており、中では拓真が何やらパソコンをいじっている。
「おい、こんな時間に何やってんだよ」
「……竜司、ちょっと見てくれ」
拓真の顔は真剣で、声は低かった。
画面には、暗号化された大量のデータが並び、その中に一つだけ赤いフォルダがあった。
——【被験体No.7】
フォルダを開いた瞬間、竜司は息を呑む。
そこには、血液検査の結果や心拍数の推移、筋肉繊維の変化までが詳細に記録され、さらに——美咲の署名入りの承認書が添付されていた。
「……これ、どういうことだ?」
竜司の声は震えていた。
「お前……美咲に何かされてるぞ。これは人体実験だ」
拓真によれば、このデータは港の倉庫にあるサーバーから抜き出したもので、偶然にも美咲のアカウントからアクセスがあったらしい。
竜司の頭に、ここ数か月の出来事が走馬灯のようによみがえる——
不自然な体力の増加、試合中の異常な集中力、そして夜ごとに見る悪夢。
その時、修理店のドアが勢いよく開いた。
入り口に立っていたのは、美咲だった。
「……それ、消して」
声は冷たく、瞳はいつもの優しさを欠いていた。
竜司は立ち上がり、彼女に一歩近づく。
「説明しろよ、美咲。俺は……何なんだ?」
沈黙。
美咲の手の中で、小さな黒いリモコンのような装置が光る。
次の瞬間、竜司の全身に激痛が走り、膝から崩れ落ちた。
視界が白く弾け、耳鳴りの中で美咲の声が聞こえる。
「竜司……私を信じないで。信じたら、死ぬから」
その言葉を最後に、竜司の意識は暗闇に沈んだ。




