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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第39章 美咲の沈黙


 夜の港湾道路を、黒塗りのワンボックスが滑るように走っていた。

 助手席の美咲は、外の街灯をぼんやりと眺めながら、膝の上の書類に指先を滑らせる。

 そこには“被験体No.7”という赤い印字。

 そして、竜司の名前。


 後部座席では、スーツ姿の男が無言でタブレットを操作していた。

 男は、彼女に視線を向けずに言う。

 「明日、No.7を回収する。予備の拓真は計画通り廃棄だ」

 「……了解」

 短く答えた声は、冷たくもあり、震えてもいた。


 窓に映る自分の表情は、薄暗い海のように読めない。

 ——竜司の顔が浮かぶ。

 不良だらけの街で、笑いながらバットを振る彼。

 無茶をして怪我だらけになりながら、仲間を守ろうとしたあの日の背中。


 私が彼をここまで引き上げた……でも、それは彼のためじゃない。

 心の奥底でそう呟く声が、もう一つの自分を刺す。


 港の倉庫群の一角に、臨時の研究拠点があった。

 中に入ると、冷凍庫のような寒気と、薬品の匂いが一斉に押し寄せる。

 壁一面のホワイトボードには、無数のコード番号と血液データ。

 中央のシートには、意識のない複製の拓真が横たわっていた。


 白衣の研究員が、美咲に微笑む。

 「新しい投与パターン、決まりました。次は彼——竜司くんに試しましょう」


 その言葉に、美咲の喉がかすかに詰まる。

 このまま黙っていれば、竜司は“兵器”になる……でも、今さら引き返せない。

 彼女は微笑みを作り、紙の契約書にサインした。


 帰り際、倉庫の出口で立ち止まり、夜の海を見つめる。

 波の音に混じって、遠くから暴走族のエンジン音が響く。

 竜司がまだ、どこかで走っているような気がした。


 「……ごめん。これが、私のやり方だから」

 その声は夜風に消え、誰の耳にも届かなかった。



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