第38章 ガラクタ置き場の囁き
錆びた鉄板で囲まれたガラクタ置き場は、夜の湿気と油の臭いでむせかえるようだった。
竜司は膝に手をつき、必死に呼吸を整える。
複製の拓真は、周囲を素早く見回しながら、使えそうな隠れ場所を探していた。
「ここなら、数分は持つ」
彼は古い自動車のボディに手をかけ、竜司に腰を下ろすよう促した。
「……さっきの“実験台”って話、詳しく聞かせろ」
竜司の声は荒く、しかし焦りが滲んでいた。
拓真は黙ってポケットから折れたライターを取り出し、かちかちと火花を散らす。火はつかない。
「人を“作る”って話、信じられるか?」
「……冗談だろ」
「冗談なら良かった。だが俺は、その結果として生まれた」
拓真は、自分が「記憶」と「肉体」を組み合わせて造られた存在だと語った。
——オリジナルの拓真から抽出された記憶片。
——別の提供者から作られた肉体。
——そしてそれらを繋ぎ合わせるための薬物「KASTORI」。
竜司は息を呑んだ。
「KASTORI……お前ら、不良の間で流れてるあの合成ドラッグか?」
「表向きはそうだ。だが本当の“製品”は、俺らだ」
そのとき、置き場の外から足音が近づいた。
鉄板の隙間から覗くと、三人組の影が暗闇を横切る。
声は低く、だが聞き覚えのあるものがあった。
——美咲の声。
竜司は反射的に立ち上がりかけたが、拓真が押し止めた。
「動くな。今のお前は、あいつに見つかっちゃいけない」
「なんでだよ、美咲は——」
「俺らを“作った側”に、あいつは関わってる」
信じがたい言葉に、竜司の頭の中で過去の記憶が錯綜する。
笑顔で差し入れを持ってきた美咲。
怪我をした時に黙って手当てしてくれた美咲。
——それが全部、計算の上だったというのか?
足音が遠ざかるまでの数分間、竜司の胸の中では、怒りと疑念とわずかな希望が渦を巻いた。
拓真が低く告げる。
「俺の目的は、お前を守ることじゃない。お前に“選ばせる”ことだ。敵になるか、同じ道を行くか」
竜司は黙ったまま、油の臭いがこびりついた夜空を見上げた。
その先にあるのは、甲子園でも、ただの喧嘩でもない——もっと深く、暗い場所だった。




