第37章 夜の港を駆ける影
金属音と共に、コンテナの外壁に弾痕が花のように散った。
竜司は耳の奥がじんじんと痛む中、息を整えた。
「どこから撃ってきてやがる……!」
複製の拓真は短く答える。
「南東の倉庫群、屋上だ。あいつはプロだ。俺らの位置を読んでる」
次弾が届くまでのわずかな間に、二人はコンテナの影を伝いながら移動する。
潮の匂いに混じって、焦げた火薬の匂いが濃くなっていった。
「なぜ、俺を助けた?」
竜司の問いに、拓真は一瞬だけ視線を泳がせた。
「……お前は、俺の“鍵”だからだ」
その声音には嘘の響きがなかったが、説明はあまりに不十分だった。
「鍵ってなんだよ?」
「その答えを知るには……俺の“作られ方”から話さなきゃならねぇ」
遠くで低いモーター音が近づいてきた。
港湾作業用の小型フォークリフトが、誰も乗っていないのに勝手に動き、彼らの進路を塞ぐ。
「……リモート操作だ」
拓真が短く舌打ちすると、コンテナの間から黒ずくめの男が数名現れた。
PMCとは違う、もっと雑多で荒れた動き。半グレと港湾労働者が入り混じったような風貌だった。
竜司は背中から金属バットを引き抜き、拓真はコンパクトな拳銃を構える。
次の瞬間、至近距離で火花が散り、夜の港が殴打と銃声で震えた。
混戦の最中、竜司は一人の男を押し倒した拍子に、その首元に奇妙なタトゥーを見つけた。
それは蛇が鎖を噛み砕く図柄——桐生が以前、話の中で口にした「ある組織」の印だった。
(なぜこいつらが……)
疑問が膨らむ間もなく、拓真が竜司の腕を引き、港の外れの古びたフェンスへ走った。
フェンスを越え、路地裏に飛び込むと、背後で狙撃手の弾がアスファルトを削った。
「まだ追ってきやがる……!」
竜司は振り返ろうとしたが、拓真が肩を掴んで制した。
「振り返るな。あいつはお前を仕留めるためじゃない……生かしたまま連れて行くために撃ってる」
「は……?」
「だから逃げ切れ。でなきゃお前は、俺と同じ“実験台”になる」
その言葉が竜司の胸を冷たく締め付けた。
足音と心臓の鼓動が、路地裏の闇の中で重なり合う。
——実験台。
その言葉の意味を、竜司はまだ知らない。だが確かに、その響きは、これまでの喧嘩や抗争よりもずっと重く、深く、危険なものに思えた。




