第33章 封鎖の地下迷宮
金属扉が重々しい音を立てて完全に閉じると、廊下に残った空気が一瞬だけ吸い込まれるように沈黙した。
赤色灯が回り続け、低い警報音が腹の底に響く。
「……ロックダウンだと?」竜司が息を荒げたまま呟く。
源が無線機を取り出してスキャンを試みるが、すぐに顔をしかめた。
「電波が完全に遮断されてる。外への連絡は不可能だ」
美咲が壁際の端末に駆け寄り、慣れた手つきで操作を始める。
「この施設、地下三層構造になってる。ロックダウンは第1階層だけじゃなく、全部だわ……」
画面に映る配管と通路の図面が赤く点滅し、どの出口にも大きな×印が付いていた。
「だが、搬送ルートは必ずあるはずだ」桐生が低い声で言った。
「カストリは生きた実験体と一緒に運ぶ。密閉式のエレベーターを使う以外に方法はない」
竜司は桐生の言葉に違和感を覚えた。
——なぜ、そんな内部情報を知っている?
問い詰めようとしたが、その瞬間、廊下の奥からかすかな足音が近づいてきた。
全員が即座に壁際に散り、銃を構える。
現れたのは、顔面蒼白で血まみれの白衣の技術員だった。
男は視界に竜司たちを捉えると、恐怖に満ちた目で叫んだ。
「逃げろ……上層に“あれ”が……」
その言葉は途中で途切れた。
乾いた銃声が一発、通路の奥から響き、技術員の頭部がのけ反る。
血飛沫が壁に広がると同時に、暗がりから黒い影が一歩踏み出してきた。
それは警備員ではなかった。
全身黒の戦闘服に、防毒マスクと暗視ゴーグルを装備した、明らかに別系統の部隊。
源が小声で呟く。
「……民間軍事会社(PMC)か」
桐生が一瞬だけ口元を歪めたように見えた。
竜司はその表情を見逃さなかった。
「お前……こいつらと繋がってるのか?」
「違う。だが、奴らの行動パターンは知ってる。近接戦になる前に抜け道を使うぞ」
桐生は躊躇なく左側のメンテナンス用扉を開け、薄暗い配管通路に飛び込んだ。
その背中を追うべきか——竜司の胸中で判断が揺れる。
だが、美咲が短く言った。
「今は疑ってる暇ないわ。あいつの知識なしじゃ、この迷宮から出られない」
竜司は舌打ちし、桐生の後を追った。
配管通路は人ひとりがやっと通れる幅で、蒸気の熱気と油の匂いが充満していた。
時折、足元の鉄板がきしみ、不安定な感覚が足をすくう。
やがて狭い通路が広がり、小さな制御室に出た。
そこには古い端末と、埃をかぶった非常用エレベーターがあった。
桐生が端末を操作すると、モニターに青い線が浮かび上がる。
「……ここだ。搬送ルートの一部に接続してる」
だが同時に、別のウィンドウが勝手に開き、意味不明の英数字が流れ始めた。
美咲が顔をしかめる。
「この端末、外部からハッキングされてる……誰かが私たちを見てる」
制御室のスピーカーから、かすれた男の声が響いた。
「——竜司、ようやく会えたな」
その声に、竜司の全身が凍りつく。
それは、二年前に死んだはずの“あいつ”の声だった——。




