第32章 硝煙の廊下
警報の赤色灯が回り、通路全体が血のような光に染まる。
金属製の床が足音とともに響き、奥から複数の影が迫ってきた。
「武装警備だ、四人……いや、六人!」美咲が叫ぶ。
彼らは黒い防弾ベストにサブマシンガンを構え、迷いなく引き金を引いた。
甲高い連射音が廊下に反響し、火花が飛び散る。
竜司はとっさに壁際に身を押し付け、反撃の銃弾を二発放つ。
「恭平、右側を抑えろ!」
「了解!」
源が前に躍り出て、手榴弾大の閃光弾を転がした。
瞬間、真昼のような光が爆ぜ、鼓膜を裂く衝撃音が狭い廊下を満たす。
警備員たちがよろめいた隙に、竜司たちは一気に距離を詰めた。
しかし——桐生は動かない。
銃口を下げたまま、赤色灯の中でじっと警備員の背後を見ていた。
竜司が怒鳴る。
「桐生! 何してやがる!」
桐生は短く答えた。
「……あの後ろに、俺が探してる奴がいる」
その声には、焦りでも恐怖でもなく、冷たい決意だけがあった。
次の瞬間、警備員の一人が通信機に向かって叫んだ。
「——目標確認、カストリの搬送中!」
その言葉に竜司の胸が強く打たれる。
カストリ——大阪の闇市場を騒がせた合成麻薬の名。
あれは、仲間の一人を死に追いやった元凶でもあった。
桐生が突然前に出た。
銃を横薙ぎに振って警備員の腕を撃ち抜き、残る敵を二発で倒す。
その動きは正確で、ためらいがなかった。
「……裏切りじゃなかったのか?」恭平が呟く。
だが安堵する間もなく、奥の自動扉が音を立てて閉まり始めた。
その向こうに、黒いケースを抱えた白衣の男が小走りで消えていくのが見えた。
桐生が息を荒げながら言う。
「竜司、あれがカストリだ。追うぞ!」
竜司は即座に走り出そうとした——が、美咲が腕を掴んだ。
「待って! この通路、二重センサーになってる。解除コードがないと——」
その瞬間、再び低い警報音が響く。
今度は先ほどよりも重く、地下全体が振動しているかのようだった。
源が青ざめた顔で呟く。
「……施設が完全ロックダウンに入った。もう出られねぇぞ」
桐生の視線が一瞬だけ美咲の方へ向く。
その瞳に浮かんだのは、わずかな逡巡——それとも計算か。
竜司は歯を食いしばった。
ここから先、仲間を信じるか疑うかで、生死が分かれる——そう直感した。




