第31章 鋼鉄の門
旧ドックの下を這うように進む。
足首までの冷たい海水が、服の内側にじわりと染み込んでくる。
水面に映る月光が、波で歪むたび、全員の神経がさらに研ぎ澄まされていった。
先頭を行く源が、小さく手を挙げた。
「……停止」
わずか二メートル先、海水から突き出た鉄製の桟橋に、監視カメラのレンズが光っている。
死角はほとんどない。
美咲が桐生から受け取ったヘッドセットを装着し、黒いカードを差し込む。
「……いくわよ」
青いホログラムが宙に広がり、施設のセキュリティ網が線画のように表示される。
「センサーの一部を無効化する……カウント、始める」
桐生が無表情のまま時計を見た。
「三十秒だ。遅れたらアウトだ」
竜司が深呼吸し、指を二本立てる。
「二……一……!」
全員が同時に鉄桟橋へ飛び移った。
わずか一瞬、赤外線の光が消えた。
その隙を突いてカメラの死角に滑り込み、恭平が小型の妨害装置を貼り付ける。
「……よし、行け!」
廊下のような細い通路を抜けると、前方に鋼鉄製のゲートが現れた。
高さは三メートル、厚さは十センチ以上。
「こいつ……普通の扉じゃないな」源が低く呟く。
桐生がポケットから細長い筒を取り出した。
「内部の磁気ロックを焼き切る。だが音が出る。外に気づかれる前に抜けろ」
白い煙が立ちこめ、鉄の匂いが鼻を刺す。
ゲートがゆっくりと開き始めた瞬間、背後で「カシャン」という金属音が響いた。
竜司が振り返ると、桐生が腰のホルスターに手をかけている。
「……おい、何してる」
「保険だ。中に何がいるか分からない」
桐生は視線を逸らさない。だがその目は、竜司の胸元を測るように見ていた。
ゲートの隙間から、暗闇が覗く。
奥には白い光の筋が幾本も走り、それが微かに揺れている。
「レーザーセンサー……!」美咲が息を呑んだ。
源が素早くバックパックから鏡板を取り出す。
「反射で突破できるが、順番を間違えたら即アラームだ」
竜司が全員の顔を見回す。
「俺が先に行く」
細い光の間を、猫のような動きで進む。
呼吸が荒くなるのを抑え、数センチの間隔で通路を抜けた。
最後に桐生が通る番になったとき——
突然、施設奥から低くうなるような警報音が響き渡った。
「何だ!? まだ何も触ってないぞ!」恭平が叫ぶ。
美咲の目が桐生の腰元に向く。
そこには、小型の発信機の赤いランプが瞬いていた。
竜司の全身に冷たいものが走る。
「桐生……てめぇ、何を仕掛けた」
桐生は無言で銃を構えた——。




