第28章 半分の真実
薄明の倉庫街。
源は古びたノートPCを木箱の上に置き、黒いUSBを慎重に差し込んだ。
画面に無数の暗号化ファイルの一覧が現れ、すぐに解析ソフトが動き出す。
「……随分と面倒な鍵だな」
恭平が覗き込み、眉をしかめる。
源は口元に煙草をくわえながら低く呟いた。
「一晩じゃ終わらねぇかもしれん。だが、ここで手をこまねいてる暇はない」
美咲は周囲の通りを警戒していたが、やがて竜司の方へ振り向いた。
「……もし、この中に弟さんの情報があったら」
竜司は視線を合わせずに答えた。
「それが本物か、まず疑う」
短く吐き捨てるような声だった。
八年前の記憶が脳裏をかすめる。雨の夜、赤く滲むテールランプ、血の匂い、そして——隼人の名前を呼びながらも応答がなかった瞬間。
死んだと信じることでしか、竜司は自分を保てなかった。
「来たぞ」
源の声に全員がモニターへ視線を向ける。
復号化された最初のファイルには、無機質な施設内部の監視映像が映し出された。
白い壁、無窓の部屋、鉄製のドア。そして、その中央に置かれた簡易ベッドの上——
「……っ!」
竜司は息を詰めた。
ぼやけた映像の中、若い男が上半身を起こし、ゆっくりとカメラの方を向く。
顔の輪郭、目の形、癖のある髪——それは、記憶の中の隼人と重なっていた。
だが、次の瞬間、映像が途切れ、警告音が響いた。
「ちっ……山岸が仕込んだタイマーだ」源が悪態をつく。
データの残りは自動的に削除され、復旧の見込みはない。
沈黙が落ちた。
竜司は拳を握ったまま、誰の目も見なかった。
あれが本当に隼人なのか、それとも山岸の用意した罠なのか——判断できない。
そのとき、美咲が机の上の紙の地図を指差した。
「見て。映像の壁に貼ってあった案内板、このマークと一致する」
それは地図の片隅、海沿いの工業地帯に記された赤い三角形の施設だった。
源が低く呟く。
「……民間施設じゃねぇな。政府か、それに近い連中の管理下だ」
外の通りで、またSUVのエンジン音が低く響いた。
恭平が即座に窓際に走り、カーテンの隙間から覗く。
「同じ車だ……さっきの奴らが戻ってきた」
竜司は短く息を吸い、全員を見渡した。
「行くぞ。半分じゃ足りねぇ。残りの真実は、俺たちで奪う」




