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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第27章 静寂の中の影


 濡れた靴底がコンクリートに触れるたび、重く鈍い音が響いた。

 竜司は飛び移ったビルの縁から振り返り、わずかに開いた屋上の扉を睨んだ。山岸の姿はもう見えない。だがその存在感は、夜気の奥に確かに残っているようだった。


 「急げ……!」

 恭平が低く言い、ビルの裏階段を駆け下りる。息が切れるほどの全力疾走だったが、後方からの追跡音は徐々に遠のいていった。


 裏通りに降り立った四人は、源の案内で人気のない倉庫街へと身を潜めた。

 夜明け前の静けさが、不自然なほど重くのしかかる。

 美咲は濡れた髪を絞りながら、竜司を見つめた。

 「……さっきの、どういう意味?」


 竜司は答えない。ただ山岸の声が頭の奥で反芻されていた。

 『お前の弟の命運も、その中に含まれている』


 弟——竜司にとって、その名を口にすることさえ避けてきた存在。

 八年前、事故で行方不明になったはずの弟・隼人。

 彼は、もう生きてはいないと信じていた。


 「竜司、お前の顔色が変わってる」

 恭平の声が現実へ引き戻す。

 竜司は深く息を吐き、短く答えた。

 「山岸は……隼人のことを知ってる。いや、あいつの手の中に……」

 「生きてるってことか?」源が眉をひそめる。

 竜司は即答できなかった。山岸の発言は意図的に曖昧で、確信を与えない。だが、竜司の心の奥に沈んでいた疑念を、無理やり引きずり出すには十分だった。


 美咲はそっと竜司の隣に座った。

 「……もし、弟さんが生きているなら」

 竜司はその先を聞きたくなかったが、美咲は続けた。

 「その人を餌に、山岸はあなたを動かす。あなたが何を優先するか——命か、真実か」


 その言葉は、山岸が屋上で吐き捨てた予告と重なる。

 竜司は無意識に拳を握りしめ、指の関節が白くなる。


 その時、源が古びた木箱をどけ、床下から小型のケースを取り出した。

 「お前らに見せとくもんがある」

 ケースの中には、黒く塗られたUSBと、暗号化された紙の地図。

 「これが、山岸から盗み出した“半分のデータ”だ。残りは……あいつが持ってる」


 竜司はUSBを握りしめ、静かに呟いた。

 「なら……奪うしかない」


 倉庫の奥の古びたガラス窓から、東の空がわずかに白み始めていた。

 だが、その薄明かりの中で、遠くの街路を黒いSUVがゆっくりと横切るのが見えた。

 ナンバーは隠され、窓は完全にスモーク。

 竜司の背筋に冷たいものが走る。

 ——山岸は、もう次の一手を打ってきている。

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