第25章 銃口の向こう
非常階段の鉄扉を押し開けた瞬間、竜司の目に飛び込んできたのは、ガラス越しに広がる雨の夜景と、その前に立つ二つの影だった。
一人は山岸。背筋を伸ばし、余裕の笑みを浮かべている。
もう一人は、美咲——彼女の両手には黒い拳銃が握られ、その銃口は竜司の胸を真っ直ぐに狙っていた。
「……やっぱり来たな」
山岸が低く笑う。その声には、すでに勝者の響きがあった。
竜司は一歩踏み出し、美咲を見据える。
「それが答えか、美咲」
美咲の唇がわずかに震えたが、銃口は微動だにしない。
背後から恭平と源がゆっくりと進み出る。だが、山岸の部下らしき男たちが左右の壁際から現れ、サプレッサー付きの銃を構えて包囲した。
「銃を下ろせ、竜司。君たちの選択肢は二つだ。ここで終わるか、彼女に撃たれるか」
山岸の言葉に、部屋の空気が凍りつく。
竜司は胸の奥の痛みを無理やり押し込み、声を絞り出す。
「お前は……本当にそれでいいのか、美咲」
美咲の瞳が一瞬だけ竜司の視線を捉えた。
その奥に、かすかな迷いと——何かを訴える光。
山岸がゆっくりと近づき、美咲の肩に手を置く。
「撃て。君の忠誠を、俺に証明しろ」
その瞬間、美咲の呼吸が荒くなる。
右手の指がトリガーにかかり、雨音が遠くで途切れたように感じられた。
竜司は、まるで銃口の奥から美咲の心を覗き込むように言った。
「撃てるなら、撃て。だが——その弾は俺じゃなく、お前自身を殺す」
美咲の指が、わずかに震えた。
山岸の笑みが薄れ、低い声が室内を這う。
「ためらうな」
次の瞬間——乾いた銃声が轟いた。
だが倒れたのは竜司でも、美咲でもなかった。
山岸の右肩から血飛沫が上がり、彼は驚愕の表情で振り返る。
「……裏切ったな」
山岸の声が、低く歪んだ。
美咲は銃口を山岸に向けたまま、一歩前に出た。
「これは——私の答えよ」
だがその背後で、もう一つの銃口が美咲の後頭部に向けられていた。
山岸の部下が、無言で引き金を絞る準備をしている。
竜司はそれを見て、全身の筋肉を爆発させるように動いた——。




