第22章 赤い警告
廊下の空気が一瞬で凍りつく。
暗視ゴーグル越しに光る四つの赤い視線——武装兵たちは無言で銃口をこちらへ向け、指がトリガーにかかっていた。
「散開!」
竜司の声と同時に、女が壁際に滑り込み、源が床を転がりながら二発放つ。消音弾の鈍い破裂音。先頭の兵士が胸を押さえて崩れたが、残り三人は怯まない。
廊下に短い閃光が走り、耳を劈く乾いた衝撃音が反響する。
銃弾が壁を削り、コンクリ片が飛び散る中、竜司は素早く距離を詰め、一人の兵士の銃を蹴り飛ばした。
膝への一撃、肘への逆打ち。呻き声と共に男が沈む。
だが、最後の二人は隊形を崩さず、冷徹に銃を撃ち続けた。
「くそっ、こいつら訓練されてやがる」源が歯噛みする。
そのとき、金属扉のパネル前で作業していた恭平が叫んだ。
「解除成功! 中に入れ!」
竜司たちは弾丸をかわしながら扉をすり抜けた。
中は薄暗く、サーバーラックが無数に並び、冷却ファンの低い唸りが耳を包む。
床には冷気が溜まり、足元の霧のような蒸気が照明を淡く反射している。
「これが山岸のデータ中枢か……」
女が息を整えながら周囲を警戒する。
恭平はノートPCをラックに接続し、キーボードを叩き始めた。
「外部回線に繋がってる。ファイルを全部吸い上げる」
画面に赤い文字が次々と流れ、暗号化されたフォルダが解かれていく。
だが、わずか数十秒後——
サーバールーム全体が赤く点滅し、低く不気味な警告音が鳴り響いた。
「自動消去プログラムが動き出した……!」恭平の指が一層速くなる。
「あと90秒で全部消える!」
竜司は入口に向かい、廊下から侵入してくる足音を睨みつけた。
先ほどの兵士たちの増援だ。
「時間を稼ぐ。お前らはデータだ」
源と女も頷き、ラックの間を移動しながら応戦する。
銃声が反響し、金属棚に火花が散る。
弾丸の熱と冷却ファンの風が入り混じり、室内は異様な熱気と冷気の渦になった。
残り10秒。
恭平が息を詰め、最後のコマンドを叩く。
「……転送完了!」
USBメモリを引き抜いた瞬間、サーバー群が一斉にシャットダウンし、真っ暗になった。
静寂が訪れた——その一瞬の間に、廊下の奥からゆっくりと足音が近づく。
ヒールの音。乾いたコンクリートを打つ、高く澄んだ音色。
姿を現したのは、黒いスーツに身を包んだ女だった。
背筋を伸ばし、紅い口紅が闇の中で鮮やかに浮かぶ。
竜司は思わず息を呑む。
「……美咲?」
彼らが二年前、裏切りで死んだはずだと信じていた仲間。
その目は、もう竜司を仲間とは見ていなかった。




