第21章 南港の影
午前3時過ぎ、大阪南港は異様な静けさに包まれていた。
コンテナヤードの奥にひっそりと立つ、老朽化した八階建てのビル。表向きは廃業した倉庫会社の所有物だが、竜司たちはここが山岸の私設部隊の拠点だと突き止めていた。
「目標建物、監視カメラ四基。東側は死角、海沿いから回り込める」
源が双眼鏡を下ろし、小声で報告する。
霧が深く、街灯の明かりはぼんやりと滲んでいる。潮の匂いに混じって、焦げたような油臭が鼻を刺した。
恭平がノートPCを抱え、短く息を吐く。
「電子ロックの解除は2分でやる。だけど、電源落とすと中の連中に即バレする」
女はライフルのストラップを肩にかけ直し、「じゃあ静かにやるしかないわね」と呟いた。
搬入口の鉄扉は、表面こそ錆びていたが、鍵は最新型の生体認証式に換えられていた。
恭平が携帯型のスキャナーをかざし、指紋データを偽造する。
「……よし、通れ」
低い電子音とともに、扉は音もなく開いた。
中は湿ったコンクリートの匂いと、わずかな機械音。
廊下の蛍光灯は半分が切れていて、天井に並ぶ監視カメラはゆっくりと首を振っている。
恭平がジャマーを起動し、赤いランプが淡く点滅した。
「これで15分間はカメラも通信も死ぬ。でもそれ以上は持たない」
先頭を歩く源の耳がピクリと動く。
階段の上から、靴底が金属を踏む音——一人、いや二人分。
竜司は無言で手信号を送り、全員が壁際に身を潜めた。
暗闇の中、黒い戦闘服の男たちが姿を現す。
暗視ゴーグルの奥で、赤い光が冷たく瞬く。
一人が無線に手を伸ばしかけた瞬間、竜司が飛び出し、その手首をねじり上げた。
鈍い音とともに男が崩れ落ちる。
もう一人が銃を構えるが、女の放った消音弾が膝を撃ち抜き、短い悲鳴が響いた。
倒れた男のポケットから、竜司はカードキーを抜き取る。
「これで奥へ行ける」
三階に上がると、廊下の奥に重厚な金属扉。
内部からは低い唸り声のような機械音が漏れている。
「サーバールームだな」と源が呟く。
恭平がパネルにカードキーを差し込み、続けて暗号コードを打ち込む。
だが、突然モニターが赤く点滅し、警告音が廊下に響いた。
「……くそ、山岸仕様の暗号化だ。あと60秒くれ」
そのとき、背後から低く響く足音。
廊下の影が揺れ、煙の向こうから四人の武装兵が現れた。
銃口がこちらに向く。
竜司は短く笑った。
「やっと出てきたな」




