表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/96

第20章 切り札


 夜が明け、港区を抜けた源のバンは、河川沿いの廃工場跡に停まった。

 鉄骨だけが残る建物の中に入り、竜司は恭平を毛布にくるんで横たえる。頬の腫れ、唇の裂け目――一晩中殴られていたのだろう。

 「しばらく休ませろ」竜司は低く言い、外に出て煙草を取り出した。


 源が後を追い、煙草に火をつけながら訊ねる。

 「……あいつが言ってた切り札、何だと思う?」

 竜司は煙を吐き、目を細めた。

 「家族を人質にするだけじゃ足りねぇ。あの山岸はもっと“広範囲に効く”手を持ってる」


 その時、源のスマホが震えた。

 非通知。

 「……出ろ」と竜司が促す。

 源が通話を繋ぐと、低く押し殺した声が響いた。

 『竜司、聞こえるか』

 「山岸か」

 『切り札を見せてやる』


 通話の直後、源の端末に動画ファイルが届いた。

 再生すると、薄暗い部屋に並べられた複数のPCラック、その前で座る数人の若者――顔には疲労と恐怖が滲んでいる。

 カメラがパンし、壁に貼られた巨大な地図が映る。日本全国の都市に赤いピンが打たれ、それぞれに数字とタイマー。


 『これは“清算の日”の計画だ』山岸の声が重なる。

 『地方都市のインフラを同時に止める。電力、水道、通信――そして救急ネットワークも』

 竜司の背筋に冷たい汗が流れる。これは単なる脅しではない。


 「お前、そんなことやれば……」竜司が吐き捨てる。

 『国は動く。だが、それが狙いだ。混乱の中で俺たちが“供給者”として支配する』

 源が青ざめて画面を閉じる。

 山岸はさらに追い打ちをかけるように言った。

 『恭平はそのシステムの一部を設計した。裏切り者には口を封じてもらう』


 通話が切れると、廃工場の空気は一気に重くなった。

 竜司は煙草を踏み消し、恭平のそばに戻る。

 「……本当なのか」

 恭平はうなずき、唇を震わせながら語り始めた。


 「二年前、俺は山岸の依頼で“分散型侵入プログラム”を作った。

  インフラを一斉に落とすことができる……ただし、直接的に使えばテロと変わらない。

  俺は試作だけして、封印したはずだった」


 源が問い詰める。「そのデータはどこに?」

 「……暗号化して、オフラインのサーバーに置いた。でも山岸は、その場所を突き止めたんだ」


 竜司は短く息を吐く。

 「なら、そのサーバーを先に抑えるしかねぇ」


 だが恭平は首を横に振った。

 「問題は……サーバーの中に、竜司、お前の名前も含まれてることだ」

 竜司の表情が固まる。

 「……どういう意味だ」

 「お前が昔、港区の裏ルートで武器を手に入れた記録。もしそれが公になれば、警察もお前を庇えなくなる」


 竜司は一瞬だけ沈黙し、その後低く笑った。

 「構わねぇ。俺はもう、とっくに真っ当な道から外れてる」


 その夜、三人はサーバーのある廃ビルへ向かう準備を始めた。

 武器の確認、通信機器のチェック、逃走経路の策定。

 源が最後に問う。

 「竜司、本気で行くんだな」

 竜司は拳銃を腰に差しながら答える。

 「恭平の命も、この街の未来も、全部まとめて奪い返す」


 外はまだ小雨が降り続き、ビル群の向こうで稲光が走った。

 山岸の切り札――それは時間との戦いでもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ