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『グラウンドの亡霊たち』 ―血と汗と裏切りの果てに―  作者: キロヒカ.オツマ―


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第14章 黒塗りの影


 黒塗りの車がグラウンド脇の道路をゆっくりと回る。

 窓はスモークで中は見えないが、車体から放たれる圧迫感だけで、竜司の背筋に冷たい汗が流れた。

 練習を続けていた部員たちも、バットを振る音やボールの衝突音をやめ、息を呑んでその車を目で追った。


 「竜司……あれ、やばくない?」

 マネージャーの美咲が小声で言った。

 竜司は短くうなずく。

 「松尾、あれはお前を見張ってるんじゃないか?」

 松尾は唇を噛みしめ、答えなかった。

 ただ、その指先は震えている。


 車はグラウンドを一周し、角を曲がって見えなくなった。

 その瞬間、張りつめた空気が少しだけ和らいだが、部員たちの目の奥に残った不安は消えない。


 その夜、竜司のスマホに非通知の着信が入った。

 「……もしもし」

 返事の代わりに、ざらついた低い声が響く。

 『お前らの仲間の松尾、知ってるな? 明日の夕方、港の倉庫に来い。来なけりゃ……試合も、甲子園も、全部なくなるぞ』

 竜司が何か言う前に電話は切れた。


 港の倉庫――北浜の不良なら誰でも知っている、裏取引の温床だった場所だ。

 竜司はすぐに松尾を呼び出した。

 校舎裏、誰もいない夜の闇の中で、松尾は恐る恐る姿を見せる。

 「港の倉庫に来いって言われた」

 竜司の言葉に、松尾の顔は真っ青になった。

 「……竜司、行かないほうがいい。あそこは……俺が借金を作った場所だ」


 「じゃあ、なんで呼ばれたんだ?」

 「多分……俺がまだ金を返してないから、お前を巻き込んで、チームごと潰そうとしてる」


 竜司は深く息を吸った。

 「分かった。だが行くのは俺一人じゃない。信頼できる奴を連れていく」

 そう言って彼は、主将としてではなく、一人の不良としての勘を働かせた。


 翌日、放課後。

 竜司は二人の仲間――捕手のげんと、暴走族上がりのピッチャーの恭平を呼び、港へ向かった。

 夕焼けが沈みかけ、倉庫街はオレンジと黒の影が交錯していた。


 錆びた鉄の扉を押し開けると、そこには数人の男たちが待ち構えていた。

 スーツ姿の男の手には、練習場で撮られた松尾と謎の男の映像が収められたタブレット。

 「これは警察に渡せば、お前ら全員、甲子園なんて夢のまた夢だ」

 竜司は黙って男を睨んだ。


 「俺たちに何をさせたい?」

 スーツの男は笑い、言った。

 「簡単なことだ。次の試合で負けろ。それも、分かりやすく」


 恭平が一歩前に出る。

 「ふざけんな……!」

 だがその瞬間、背後のシャッターが閉まり、鉄の音が響いた。

 倉庫の奥から現れたのは、かつて竜司たちが街で恐れていた元暴走族の総長――「鬼塚」だった。


 「お前らがどれだけ足掻こうが、この街のルールは変わらねぇ」

 鬼塚の目は氷のように冷たかった。


 その瞬間、竜司は悟った。

 これはただの脅しではない――もっと大きな、裏社会と甲子園をつなぐ黒い企みの一部だと。



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