第13章 裏切りのレフト
朝焼けが校舎のガラス窓に赤く反射し、北浜高校のグラウンドを染めていた。
澄み渡る空の下、部員たちは黙々とウォームアップを繰り返していたが、その中で一人、レフトを守る松尾の表情は硬かった。
普段は無口で大人しい彼が、ここ数日、練習後や試合の後に誰とも話さず、一人でいることが多くなっていた。
「おい、松尾。どうしたんだ? 最近、元気ないぞ」
声をかけたのは、キャプテンの竜司だった。
松尾は一瞬目を伏せ、やがてゆっくりと答えた。
「……俺、もう、ここにいられないかもしれない」
竜司は眉をひそめた。
「どういう意味だ? チームを抜けるってことか?」
松尾は躊躇しながらも、口を開いた。
「俺……裏の連中に借りがあって……その、払うために……」
その言葉が、グラウンドに冷たい風を吹き込んだように感じられた。
「借りって……何の借りだ?」
竜司は声を低くして問い詰めた。
「ヤクザに、金だ。逃げられなくて……」
その時、遠くから練習を見守っていたマネージャーの美咲が駆け寄ってきた。
「松尾くん……これ、見て」
差し出されたスマホの画面には、昨夜撮影された映像が映し出されていた。
映像の中で、松尾が誰かと密会し、見知らぬ男に大金の入った袋を渡している。
その男は間違いなく、裏社会の者だった。
映像の撮影者は不明だが、これは確実に脅迫の材料になる。
竜司は握りしめた拳をゆるめながら言った。
「松尾、お前は裏切ったんだな……」
松尾は俯き、涙をこぼした。
「すまない……俺は、みんなの足を引っ張るだけだ」
だが、竜司の目は厳しかった。
「引っ張るだけじゃ済まねぇ。お前のせいで、俺たち全員が危険に晒される。お前が何を考えているかは知らねぇが、最後まで戦う覚悟があるなら、今すぐ全部話せ」
松尾は一呼吸置いてから、低く呟いた。
「……あの粉を部に持ち込んだのは俺だ。俺は……逃げ場がなかった。だから……」
竜司はその告白に言葉を失ったが、次の瞬間、決意を固めた。
「お前がどうであれ、俺たちはチームだ。これからはお前を守る。お前も逃げずに戦え」
しかし、その背後で、冷たい視線が二人を見つめていた。
――黒塗りの車がゆっくりとグラウンドを一周していたのだ。




