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氷結時代の終わり  作者: 六角光汰
第二章 超AIの罪と罰
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初めて入った十一面体を振り返ると、遠ざかる黒々とした質感のない物体が、ことさら気味悪くイアインには感じられた。暗黒の空洞は遠くから日常的に眺めていたものの、改めて意識してみると、この建造物に関する色々な噂が立つのもうなずける。

 片側二車線の銀色に光る金属板の上を、磁気で浮いたカートが音もなく走る。自宅までの専用のレーンであるかのように、すれ違うカートもない。ただ、この幹線道路の上空には物資輸送専門のドローンが夥しく行き来している。

 カートの窓から眺める景色も見慣れたものだった。林立するクリーム色の高層ビルが青い空に向けて突き刺さり、その稜線のおかげで地平線はどこまで行っても見えない。ここに住んでいる限り、日没や日の出といった雄大な風景は、軌道エレベータに乗ったときか、シャトルで宇宙港へ向かうときにしか見られない。

 やがて、自宅のある高層ビルへの分岐に入り、ビルの中腹に開いたゲートに吸い込まれた。このゲートにもカートが数台止まっているだけで、人の気配がない。

 例によって百二十階建てのビルには一万人程度が住めるが、現在は六百人程度しかいないらしい。介護カートが点々と散らばる閑散としたマンションの玄関をくぐるとき、いつものように弱いフラッシュが光って扉が開いた。

 母親のいるコンドミニアムは二階上にあった。イアインが一人暮らしを許されたのはつい最近だ。母親のいる階には、信者たちが三十人くらい住み着いているので賑やかだが、彼女の住む階には他に誰もいない。家出から戻ってすぐにあの母親の顔を見なくて済んだのは幸いだった。

 だだっ広い部屋に入ると、照明がつき、壁一面の巨大な光学ディスプレイに、不在時にあった連絡などの履歴が表示された。リストには、知り合いのものが数件あったが、見慣れない名前もあった。サクゲナ市長、マクモ・ゾーラ。種類は映像メッセージ。そんな人は知らない。

 興味を感じなかったイアインは内容を確かめずに画面を切り替えた。

 ニュースチャンネルは、たいてい項目が表示されていて、知りたいニュースを選択できるのがふつうだが、ちょっとした出来事があるとキャスターが生出演して伝えることがある。ちょうど今も女性キャスターが何やら喋っていた。背景にはレザム星全体の地図があり、その一部はロキ大陸にズームアップされている。

「人類最後の自然分娩に成功したアーイア・ライントさんの娘、イアイン・ライントさん十七歳が誘拐されていたことがわかりました。政府や報道機関は被害者の安全のために情報を制限していました。しかし、数時間前に、独立自然主義者同盟に誘拐されていたイアイン・ライントさんが無事に戻ってきました。誘拐時の状況や、解放された経緯は現在調査中ということです。イーアライ・クールグ首相は独立自然主義者同盟を逮捕することになるだろうと述べています。この情報が伝えられたロキ大陸のサクゲナ市では、市民の抗議デモが散発的に発生しています。マクモ・ゾーラ市長も真相の解明に自ら乗り出す旨を表明……」

 やれやれといった感じでイアインはニュース画面を閉じた。自分の体験したことがこうして客観的に報じられていることに疲れを感じ、眠くなってきた。

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