第7話 †初めての授業†
オレは素敵亭に向かった。学園に通う間の宿として使うつもりだ。
「おかみさーん!ただいまーー!!」
「アーシェ君おかえりーーー!!」
厨房の中からカトラの大きな声がした。
オレはそのまま3階へ上がり突き当り右側の部屋に入った。オレの部屋としてカトラが用意してくれた部屋だ。
中は日本で言うと6畳1間でベッドが置いてあるほか調度品は椅子くらいしかない。
窓が付いていてそこから街並みを見ることができる。
ベッドに転がると「ルクス」と唱えた。灯火が指先に付いた。
「これって空中に固定できないかなー?」
そう考えたら灯火が指先を離れ天井近くへと移動していった。
「すげえな魔法って!!」
グウウウウウウウウーーーーーーーーーーー
腹が鳴った。そういえば今日は朝メシも昼メシも食べていなかった。
1階の酒場に降りると客が何人か来ていた。
おかみさんと目が合うと「アーシェ君ごはんたべるかい?」と元気な声で聞いてきたので、「お願いします」と答えた。どことなくアマラと雰囲気が似ていて逆らえない感じの人である。
「おまちーー♪」メイン料理とパンが2つ、ワンプレートに乗っている。
今日のメインは魚だそう。見ると黒よりの焦げ茶色をしたスープだ。
ニオイは問題ない。むしろ旨そう。見かけはアレだが多分うまいやつだろう。
スープを一口すくって口に入れる。やっぱり旨い。
パンに齧りつく。白っぽい色のパンで黒パンのように固くなく柔らかい上に焼き立てなのかいい香りがする。こちらも文句なく旨い!
腹が減っていたのであっという間に完食した。
「アンタ!もう部屋に戻るのかい?」
声をかけて来た方を見ると、スレンダーな体型の茶髪の女性がこちらを見て立っていた。
「えーーーっと?どちらさまでしたっけ?」
記憶にない人物だ。
「わたしはカトラの娘!マリアよっ」
髪色と同じ茶色い瞳がいささか怒っているようだ。
カトラよりも人族に近い気がする。親父さんは人族かな?
「昨日あいさつしたのにもう忘れたの??ほーんと酔っぱらいはこれだから・・・」
昨夜の宴会で酔っぱらっているときにあいさつされたらしい。おぼえてない。
「あんた『クレッセン魔法学園』に今日から通ってるんでしょ?見かけなかったけど何組なのよ?」
「あー、オレはずっと学長とマンツーマンで授業受けてたからなあ・・。クラスは『特待生クラス』ってとこらしい。まだ行ったことないけど」
「えええええええええーーーーーーーー!??あんたが噂の転入生なの???魔導王以上の魔力をもっていて入学試験で魔力測定水晶を壊したって言う・・・」
「噂のかどうかは分からないけど水晶は壊したな」
「じゃああんた魔法得意なんだー?」
「得意?ではないかな。何せ今日初めて魔法使えたからなあ」
「は?」
「でもいまじゃあこうやって少しは使えるようになったんだぜ?」
オレは指パッチンした。すると指先に灯火が点いた。さらにそれを天井付近まで移動させた。
「どお?これがオレの初めての魔法『ルクス』だ」
「・・・・・・・詠唱してない」
「無詠唱ってやつ?になるのかな?あした学長に聞いてみるまで分からないけど」
「ルクスが移動した」
「移動させたからなあ」
「普通は移動しない。そんなことできない」
「そうなんだぁ・・・(早く部屋戻って寝たい)」
「ねえ?どうやればそれできるようになるの?やり方おしえてくれない?」
「(うわぁ・・めんどくさっ)ん?ルクスの移動のことならば念じればできるようになった」
「ほんと?じゃあわたしも後で試してみる♪ありがとねアーシェ!」
御機嫌で立ち去るまりあの背中を見送りながらできるといいなと願っていた。
できなかったら後が怖そうだしね!
オレはようやく3階の部屋にもどり寝ることができた。
「コラ――――っ!!あーっしぇのバカっ!!おきろ!!このっ!!!!」
突然の罵声で目を覚ます。
辺りは真っ暗、まだ真夜中っぽい。
だれだ?寝ているオレの上に乗って騒いでいるのは?
「だれだ?おまえ?そこで何をしている」
寝起きで不機嫌だったため多少どすの効いた声になった。
「え?あっ・・・ごめっ」
マリアが半鳴き声を出す。
「なんだ?マリアかよ?誰が夜這いに来たのかと思ったぜ」
マリアの顔がたちまち真っ赤になり、「だ、だまれっ!!夜這いに来たんじゃない!!」
「じゃあ何しにこんな時間に男の部屋に?」
ニヤニヤしながら聴いた。
「な、なにって!?あれよアレ!ルクスの件よ!!」
あー、あれか?何か問題があったのだろうか?
「無詠唱で発動しようとしたけど全く出来ないんですけど?」
マリアの顔が怒りに震えている。
「あったりまえじゃ〜〜ん!理論知らないのに出来るわけないじゃん!!」
「じゃあそれを教えないよ!」
「ただじゃ無理かな?めんどくさいし」
敢えてダルそうなフリをしてチラ見する。
「あ、あんたなんかいやらしいこと考えてるでしょ?」
「そんなことないんだがそう言われちゃうとオレもヤル気なくなっちゃうなぁ?」
敢えて下脾たにやけ顔をする。
「もういいっ!!」
そういうとマリアは階下に去っていった。
「やっと帰ったか。ほんとクソ眠いのに睡眠の邪魔はしないでもらいたいよ」
その後一瞬で眠りに落ちた。
朝からオレはクレッセン魔法学園学長室にいる。
今日はネレウスに軍隊における魔法の運用について講義を受けている。
「わが帝国には大陸軍があるのは知っていると思うが、それとは別にミドランティア魔法師団が編成されています。魔法師団には第一魔法師団と第二魔法師団があって、第一は帝都防衛に専念、外敵と交戦するような状況になった場合、第二師団が対応することになっています。」
「学長!師団ってどのくらいの兵がいるんですか?」
「うん。まず、師団長は中将が務め、師団長の下に大佐の連隊長が率いる戦闘連隊が3隊、支援連隊が1隊あって、1つの連隊は本部中隊が1隊、近接戦闘中隊が5隊、遠距離戦闘中隊が1隊で編成されています。中隊は少佐若しくは大尉が隊長を務め、その下に副中隊長の中尉が1名、少尉又は曹長が小隊長を務める小隊が3隊、1小隊には4つの分隊があって曹長又は軍曹が隊長を務めて約10名の兵を指揮するんだ。他にも師団本部、連隊本部にそれぞれ参謀や副官がいてそれらを加味すると、師団の兵数は平時でおよそ1万、戦時で最大4万人になります。」
「魔法師団も1万人いるんですか?」
「いや、魔法師団だけは別なんです。まず、魔法師団に入るには「上級魔法士」以上でなくてはなりません。」
「いわゆる魔法使いですがその能力によって分類されていて、下から順に「魔法士見習」「初級魔法士」「中級魔法士」「上級魔法士」「初級魔導士」「中級魔導士」「上級魔導士」があります。」
「この上にも分類があるのですが、「戦術級魔導士」「戦略級魔導士」と言いまして、この辺りになるともうおとぎ話の世界・・・だと思っていたのですが」
「どういうことですか?」
「あなたの存在です。あなたの魔法ルクスの威力、生活魔法なのに上級魔導士の放つ光属性魔法『フォトン・レーザー』以上の威力がありました。」
「ちなみに私が見たことがある最上級の魔法でもあります。」
「話を戻します。魔法師団に入るには「上級魔法士」以上でなくてはならないのですが、具体的には土属性魔法第4階梯魔法『ストーンウォール』を使えるかどうか、ということになります。」
「大規模魔法戦闘においては防御が重視されるため、各属性の第4階梯魔法の中でも最高の防御力を誇るストーンウォールが必要となるのです。」
「なるほど。そういう訳があるんですね」
「しかしそうなると人数が限られてしまい、実際の魔法師団の兵数は約3千人しかおりません。『師団』と呼称されているのはその能力に対する称号みたいなものですね。」
「さすが学長。軍のことにも詳しいですね」
「実はわたしも軍人だからね。それにキミも。というのはクレッセン魔法学園は教師、生徒ともに戦時においてはその能力に応じて、つまり上級魔法士以上の者は魔法師団に臨時編入されるんだ。わたしは編入される際のクレッセン魔法学園部隊長、いまは予備役の大佐なんだ。」
「!!?オレいつの間にか軍人になってたの???」
「この帝国で魔法使える人材は貴重だからね。たしか入学試験の募集パンフレットにもそう書いてあったはずだけど・・・」
「・・・読まずに試験受けましたw」
「なるほど。しかしこの帝国もここ300年くらいは戦争もなく平和なんですよ」
「300年前には戦争があったんですか?」
「うん。帝国のエルフリア魔導国に隣接する『ヴァルグランド帝国』と戦争がありまして。この国は人間至上主義を掲げていて、人族以外は神の祝福を受けられない獣であるという主張をしていて今もいろんな国々と衝突をしているですけど、300年前にうちの帝国に大規模侵攻してきましてね。エルフリア魔導国内の大平原で『ヴァルディオン平原大会戦』が行われました。ミドランティア帝国軍は皇帝自ら近衛師団以下国内の10師団40万人強の軍勢を率いて、ヴァルグランド帝国軍100万と決戦を行ったのです。」
「結果はどうなったんですか?」
「我が軍先陣の第一、第二、第三師団が敵先鋒に中央突破され、第二陣の第五、第六、第七師団も危うく崩壊しかけたところに、近衛第一、第二師団が救援に駆けつけましてね。ほら、近衛師団って軍装が他の師団とちがって派手じゃないですか?だから敵もすぐに近衛だと分かったらしく、皇帝がいる近衛師団を打ち倒そうとうちの第二陣をほっぽって近衛師団に矛先を変えました。皇帝を討ち取れれば決着がついてしまうからヴァルグランド帝国のこの動きも間違ってはないのですが・・・」
「実はミドランティア皇帝はこのとき近衛師団と一緒ではなく、騎兵第一、第二師団を率いて迂回していました。」
「なるほど、それで敵の先鋒が壊滅したんですね」
「いや、ミドランティア皇帝の狙いは敵本陣、つまりヴァルグランド帝国皇帝の首を獲りにいきました」
「まじですか!?」
「そして急に現れたミドランティア騎兵に恐慌している敵本陣に突入しました。これがまた巧妙で」
「このとき敵本陣には40万の敵兵がいたのですけど、突入した味方騎兵は騎兵第一師団4万人。まあ師団全軍での奇襲突撃自体が有史上初めてのことだったんだけども、ミドランティア皇帝は騎兵第二師団4万を率いて敵本陣の後方にさらに迂回していたのです。迂回がおわったころには敵本陣も落ち着きを取り戻し始めていてね。騎兵第一師団を包囲・殲滅しようと動き始めていた・・ところに背後からミドランティア皇帝が先頭に立ち騎兵第二師団の師団全軍奇襲突撃を敢行したことで敵本陣は回復不能なほどの混乱状態に陥り、恐慌状態に再び陥った兵は我先にと勝手に戦場を離脱し始めました。」
「ミドランティア皇帝やばいですね!!」
ネレウスも大きくうなずき、「ヤバいんです。軍事の天才とはまさにこの人のことです。」
「続けます。敵本陣は収拾のつかない状態になっていたのでもはや戦場ではなく、騎兵の一方的な狩場となっていたそうです。この戦いでヴァルグランド帝国皇帝は討死をし、敵軍も30万以上の死者と負傷者を出して敗退したのです。なお、ミドランティア帝国軍に方も死傷4万、兵の疲労を考慮してそれ以上の追撃を行いませんでした。」
「学長も参戦したんですか?」
「わたしも当時まだ100才の年齢でしたが、魔法師団の一員として参戦していました。」
「へーー!どうだったです?」
「とてつもなく異様な雰囲気で戦闘が始まるとそれはもう恐ろしくて・・結局我々のいるところまで敵は届きませんでしたけどそれでも恐ろしかったですよ。戦争はするものじゃありませんと思いました。」
「オレも狩りはするけど対人戦闘はちょっと嫌かもしれません」
「アーシェ君は対人戦闘は経験しているのですか?」
「ホビタリアンに来る途中に野盗に襲われまして、迎撃しました。」
「でも1対1とか1対多数は経験ないですね」
「ふむ、では授業にそのあたりも組み込むことにしましょう」
「今日の講義はこれまでにしますね。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
礼を言い学長室を退室すると予期せぬ人物とエンカウントした。




