第10話 †気と闘気†
講義が始まった。
スパルコ・ディスペという名前のムキムキ筋肉な体育教師風の40代男性が教壇に立っていた。
今日は「気と人体」についてだそうだ。
かいつまんで話すと、気には人体内にある「内気」と人体外にある「外気」があり、内外の気を自在に操れれば身体能力の大幅な向上を図ったり、武器や防具に纏わせることで攻撃力や防御力をアップさせることもできる。
さらに気を練り上げると「闘気」に変化し、闘気にもさまざまな属性があるんだそう
気が魔力で闘気が属性を付与した魔力ってところなのかな?
そう言えばマリアが言ってたな。貴族は剣技とかも鍛えてて闘気を使える奴もいるかもって
オレも闘気を使えるようになるかな?
スパルコ先生が実演を始めた。
「今から気を高めて可視化できるようにします。俺の身体から湧き上がる湯気のようなものが見えたらそれが気なのでよく観察するように」
言い終わるとスパルコ先生の身体から明らかにボヤけた白色の湯気が立ち上っている。
なるほど、これが気か。前世の記憶だと内丹、へその下にある丹田に気を集めるとか聞いたな。
オレは丹田に少し意識を向けた。
ブワっと立ち上るものを感じる。もしかして気?さらに意識を丹田に集中すると濁流のように気が吹き出してきた。
これもアレかな?選別して精製すると良いかも知れないな
オレは昔見た漫画で出てきた経絡をイメージしながら気の経路に選別機関と精製機関を取り付けてみた。
すると荒々しく吹き出ていた気が洗練された爽やかな風のように気配を変えた。
「アーシェくん!?その闘気は??」
スパルコ先生は目玉が飛び出しそうなほど驚いている
「闘気?これが闘気なんですか?」
「は?」
「いや初めて使ったから分からないんで」
「闘気も闘気!とびきり特上の最高品質の闘気だよっ!!!」
「へーえ」
オレは初めて遊ぶおもちゃみたく闘気を大きくしたり小さくしたり形を変えたりして何ができるか試してみた。
「え?どゆこと??そんな自由自在に闘気って操れるものなの??」
オレが聞きたいわ。
オレは闘気を指先に小さな玉状とし、それを黒板に向かって発射するイメージをした。
ドゴオオーーーーーーッン!!!!
黒板のあった場所は跡形もなく消し飛び屋外まで一直線に貫通してしまった
「あー……またやらかしたわ」
最小限の威力としたつもりがまるで全力で撃ったかのように無惨にも瓦礫が転がっている。
スパルコ先生の方へ目をやると……泡吹いて倒れてたw
うん、試し打ちは誰もいない屋外の秘密の場所でした方が良いな
クラスメイトの方に目をやると皆がオレを恐怖で震え上がった視線で見ていたが、オレと目が合った瞬間、光速で目線を逸らす
クラスメイトとは中々打ち解けられないねー
スパルコ先生の回復には相当な時間がかかるとのことだったのでオレは一旦学園を退去し街に繰り出すこととした。強引に誘ったクラスメイトを引き連れて……
街中で買い食いしながら歩いていると男の声で呼び止められた。
「おーい!そこのキミっ!ちょっといいかな?」
「オレのことですか?」
「そう、キミ!君はなぜ闘気を垂れ流して歩いているんだ?」
「仕舞い方が分からないと言うか仕舞えるんですかコレ?」
「そんな量を垂れ流してたら体力が尽きてしまうと思うんだが……」
「ついさっき闘気を使えるようになったから……」HPが無尽蔵にあるのは黙っておこう。
「じゃあ、お兄さんが留め方を教えてあげよう」
「お兄さん?」身長が高い、180センチはある。しかしそれよりもガタイが良すぎる。全身鍛え上げられていて威圧感が凄い!!髪は深い茶色、何より顔面がイカツイ!!!とてもお兄さんとは……
「・・・お兄さんだよ?」
こちらの考えていることを読んだかのようにお兄さんがくり返し言う。
「はい、お願いします。お兄さん・・・」完全に無理やり言わされている。
ふと気づくとクラスメイトは蜘蛛の子を散らすように消え失せていた。1人を除いて
「あれ?おまえ逃げなかったの?」
「う、うん。ぼくちょっとその人に興味があって・・・」
「えーと?このお兄さん?」
「「ユウガ・シンリュウ!!という!!!」」
バカでかい声を出したお兄さんはユウガさんと言うそうだ。
「ぼくは「シオン・オキフサ」と言います。」
「オレは「アーシェ・ルーファス」」
自己紹介がおわった。
「こんな道端じゃ他のひとに迷惑だから俺の道場に移動するか」
「道場?」思わずオウム返しに聞いてしまった。
「ああ、俺は剣術道場『カイゼル・シン流 鬼導館』の道場主。一応流派も継いでいるから当主でもあるな。」
「へええええーーーーーー!?お兄さん見かけどおりツオいんですね。」
「ま、まあ?実戦ならば他の流派に遅れは取らない自信はあるぜ?」
ユウガは照れたように鼻の下をこすった。
和風な門構え、この国では異国風というのかな?
話には聞いていたけど割と日本を想起させる建物や物もあるそうだ。オレが見たのはこの鬼導館が初めてだけど
瓦屋根に土塀で囲まれた門は相当な年輪を感じさせ、ユウガの流派、無明天心流は歴史のある剣術なのだと思われた。
「どした?アーシェ君?ボロ屋で驚いたかい?」
「いや、異国の建物を見たのは初めてなんで珍しくてジロジロ見てました」
「そうかそうか、この建物の造りは遥か遠い東の果てにある国の様式だそうだ。」
「・・この人、すごい達人です。体捌きに隙が全くないです」シオンがいつ間にかオレの横に来て耳打ちする。
「性格は良さそうだからついて行っても大丈夫だろ。何かあっても何とかなるさ」オレは気楽である。
今日は良い日だ。
闘気は使えるようになるし、剣の達人とも知り合いになれそう。しかし一番の収穫はクラスメイトと初めてマトモな会話をしたことかな
「アーシェくん、シオンちゃん、着いたぞここが俺の道場だ」
古ぼけた板に「無明天心流」と書かれているっぽいが経年で薄くなり過ぎてよく読めない。
建物の中からは野太い男の声、甲高い女の声、どれも気合いの入っていて腹から出しているのが分かる
ユウガは履き物を玄関で脱ぐとズカズカと奥へ進んでいく。オレとシオンも遅れないようについて行った。
「帰ったぞーー!」
ユウガの声に稽古がピタリと止まり門下生が皆ユウガに挨拶をする。
「して、ユウガ先生?そちらのお客人は?」
「ああ、先ほど道端で会ったばかりなんだが、クレッセン魔法学園の生徒さんで、アーシェくんとシオンちゃんだ」
先程からシオンのことを「シオンちゃん」と呼ぶが何故だろう?確かに男の子にしては背が高くなく顔も童顔で白い肌をしているのが漆黒の髪によく映える。女の子に見えなくもないか?
「なあ?シオンちゃんは女の子なの?」揶揄いを込めて聞いてみる。
「ボクは男です!」ジト目でオレをみるその顔はかわいさが増して見えた。
「先生が連れてきたんじゃあ相当遣うんでしょ?我々に一手御指南いただきたいなあ?」
二十歳そこそこの見るからに武芸者風な男がニヤニヤしてこちらを見ながらユウガに話しかける。
「道場破りですか!?容赦することはない!剣を持て俺が相手になってやるっ!!」
年の頃はオレたちと変わらないがとんでもない跳ねっ返りの少年も絡んできた。顔から湯気が出そうなほど興奮している。
「まあまあ、待ちなさい君達。これでは御客人が困ってしまいますよ。まずはユウガ先生のお話を伺うことにしましょう。」柔らかく安い口調だが有無を言わせぬ意志が込められている言葉を吐いたのはユウガさんと同じ歳くらいの知性的な青年だ。この人も物腰は柔らかいが所作に隙がない。間違いなく手練れだ。
「すまんな騒がしくて。この見るからに武芸者風の青年は、「ナガル・シンバルト」というシンドウ・ゼロス流という一流の剣術の免許皆伝を得ている『剣豪』だ。」
「つぎにそのタコみたいに赤くなっているのが「トード・フェリックス」。アストラル・ブレード流という流行の剣術の目録を得ている。」
「最後にキミの横にいる知的そうな御仁、「セイン・ケイスティア」さん。アストラル・ブレード流免許皆伝を得ながら、うちみたいな貧乏道場に再入門した奇特な人だ。」
ふと横を見る。いつのまにかセインがオレの横にいてニコニコしている。たぶん、突っかかってきそうなナガルとかトードから守るために来てくれているんだろうが、まったく気配を感じなかった。段違いに強いぞこの人……
「・・・というわけでみんな血の気が多くて困っているんですよ。しかしこちらもこのまま帰らせるような無粋な真似はできません。そこでどうでしょう?私と軽く1本稽古してみると言うのは?」
セインが涼しげな顔で対戦を申し込んで来た。
「ちぇ・・俺がやりたかったのに!口が上手いんだからセインさんは・・」
ナガルがその場でどさっと座り込む。
「セインさんがお相手を務めるならば僕に異論はありません」
トードも引き下がった。
オレはユウガを見る。
ユウガはオレに頷いて見せた。
「ではっ!!アーシェ君とセインさんの稽古試合1本勝負を始めるッ!!」
ユウガは高らかに宣言した。
門下生はみな道場の壁際まで下がっている。
シオンは心配そうにオレを見ている。
オレの2メートル先にセインが木剣を持って対峙している。
「はじめっ!!!」ユウガの裂帛の気合で稽古試合がはじまった。
「うおおおおおーーーーーーーーっ!!!」
オレは闘気を高めるだけ高め、木剣と身体全体を纏うように闘気で覆った。
「おおっ、纏もできるのか?」ユウガが嘆息する。
一方のセインは気合もあげずただ静かに最初の位置に佇んでいた。
ただ、その眼だけは先ほどとはまったく異なっていて、覗き込むと背筋が寒くなるほどだ。
「ええーいッ!!」
敏捷810を誇る最大戦速で間合いを詰め、腕力545の力で木剣を振り下ろす。
クマの魔物すら一刀両断にしてきたこの技、人相手にためらいなく放つのは初めてだ。
セインの頭蓋をかち割るはずのオレの木剣は、なんの音も発せずセインの木剣に受け止められていた。
音だけでなくオレの腕に木剣同士がぶつかる衝撃も感じさせなかった。
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
気付いたらオレの頭上にセインの木剣がふわりと乗せられていた。




