7.俺の魔力から精霊が生まれた
少し、冷静になろうではないか。
レベルは四十。
幼体の世界樹。
特異スキル所持。
……意味が分からない。
俺は幼体なんだよね? なのにレベルは四十? マックスが百としても、もう半分だぞ?
しかも、レベルアップの原因である特異スキルまで持っている。
もう一度言おう、意味が分からない。
『ログさん、これ――どのくらいヤバい?』
《一般的な基準で申しますと、隠蔽が不可能となります》
ログさんに聞いてみると、即答されたよ。
しかも、淡々とした口調で。
『隠蔽不可能って、具体的に説明してくれよ。……何も分からんよ』
もう一度問いかけると、具体的に説明してくれた。
《半径数キロメートル圏内の魔力濃度が上昇しています。〝精霊〟の発生確率も増加し、魔物が接近するには格好の餌です》
『オゥ……』
思わず、そんな声を漏らす。
精霊が発生するって……。何なの? 精霊って神樹のエネルギーから生まれるの?
しかも、加えて魔物まで来るのかよ。俺はマタタビじゃないんだけど。
《良いレベリングになりますよ?》
『いやいや、魔物が来るって言っても、勝てないと意味がないからね!?』
なんか、滅茶苦茶強い奴らが来そうな気がする……〝魔王級〟とか。
迷宮の深部で生まれた魔物とか、多分いるでしょ。そんなん、まだ勝てんて!
――あー、こりゃ多分詰んでらぁ。
まあ、なったもんはしゃあないし、こっからどうすっか考えないとな……。
『ま、まあ、俺なら大丈夫な気がしなくはないけどね?』
なんて、強がりを言う余裕は全然残っているのであった。
時間が経つに連れ、一つの懸念が出てきた。
それは、『枝操作、大丈夫なのか?』だ。
前――レベル十五なら、枝は完璧に操作はできていた。だけど、その倍以上のレベルとなった今、枝がどうなっているのかが全く分からない。変わってないのかもしれないし、力が抑えきれないのかもしれない。
もし暴走するようなら、また練習に逆戻りだ。
『……試しに、動かしてみるか』
やることは、枝を一本だけ動かす――ただ、それだけのつもりだった。
緊張を飲み込み、一本の枝に意識を集中させる。
その瞬間――
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――ッ!!
と、地面が振動した。
『は!? お、おい! 待て待て待て!!』
枝が急激に伸び、先端が地面に触れる。
すると、触れた箇所から草木が芽吹く。やがてそれは木々へとなり、根が走り、森が広がろうとしている。
『え……枝で触れただけで……!? なんで触っただけで生い茂るんだよ!?』
まずい! これは非常にマズイぞ!!
このままじゃ、森林が〝大森林〟になりかねん! ただでさえヴァルデリン森林の全貌を掴み切ってないのに、更にデカくなられたらもっと分からなくなる!!
今考えている間にも、植物が急速に育っていってる。植物対話でも、急な異変で植物達も混乱している様子だ。
一刻も早く、止めなければ!
――止めろ、止めろ止めろ止めろ!
《警告。制御が追いついていません。魔力出力がレベルに比例して増大しています》
『何! 魔力出力!? そんなんあるなら先に言って欲しかったんだけど!?』
クソゥ……魔力がめっちゃ放出してるってことか……。
今の状態で、どうやって枝をコントロールすれば良いんだ。
『こんのぉ……! ――あ、そうだ。あれがあった! 「操木」!』
ただの思いつきで、スキル『操木』を使用してみる。
すると、さっきまで荒れ狂っていた枝が、ピタリと止まった。
伸びた枝が縮み、俺が操作する前の状態へと戻ったのだ。
それを完全に確認して、俺は安堵の息を吐いた。
『はああぁぁぁ……あっぶなかった……!』
『操木』――その名の通り、木を操る事ができるのか。いや、良かった……これがなきゃ、枝を操作できなかったな。本当、感謝だぜ。
これからも、このスキルさえあれば、今後枝が暴走することもないな。
こういうドキドキは、しばらく要らないわ。いや、感じたくはないけど。
俺が気を緩めていると、ログさんが一つ質問をしてきた。
《魔物関連はどう致しますか?》
『あー……それね』
これに関しては、どういう魔物がやって来るかによるんだよな。
迷宮に出て来た魔物くらいなら大丈夫なんだけど、それ以上となると、ちょっと勝てるかどうか分からなくなるな……。
『まあ、やって来た時に考えるかな。だから、それは一旦置いておくわ』
《了解致しました》
『うん。でさ、俺も一個聞きたいことがあるんだけど、精霊ってな――』
俺が言いかけると、周囲の異変に気づいた。
俺の周りでポワポワと、なんか泡みたいな見た目をしたものが淡く光っている。
泡は漂っていて、不規則に離れたり、集まったりしている。
『な、なにこれ。なんか立ち上ってるんだけど?』
《なんでしょうかこれ》
『ログさん、これなんかわかんないの?』
《…………》
なんで黙ってるんだよ!
そう心の内で叫ぶと――光の泡が一点に密集して、玉のような見た目になった。
『……た、玉?』
《精霊ですね》
……え?
精霊? コレが?
『え、なに? 俺、今精霊が生まれるところを見たわけ?』
そう問いかけると、肯定された。
《下位ですが、そうです》
下位……?
精霊って知ってたんなら、なんでさっき黙ってたんだよ。
《無知な人がアタフタしているのが少し面白くて》
……腹立ちを、グッと抑え込む。
ログさんや、俺を弄ぶなよ、頼むから……。
『はぁ、じゃあ気を取り直して、その下位精霊っていうのは?』
まず精霊そのものが、この世界ではどういう定義なのかが分からないな。
――俺、何も知らないな。無知は罪っていうが、そうすると俺は阿鼻地獄まで行くんじゃねえか?
《精霊を簡単に解説しますと、魔力でできた生命体です》
ふむ、魔力でできた生命体。
つまり、魔力そのものが生命線ってわけか。
枯渇すれば、死ぬ。人間で言う食料の役割かな?
《その通りです》
良かった、合ってた。
『だとすると、下位上位でどうなる』
《上位が明確な意思を持っているだけ、ですね。下位は自我が薄いので》
ログさんが言い切った直後、光の玉は恐る恐るというような挙動で、俺の幹の近くまで漂ってきた。
『触って良いのかな』
その精霊に対し、俺は小動物を見るような感想を抱いてしまった。
精霊って魔力で出来てるから、幽霊みたいな体なのか? ……まあ多分、触ってもいいな。
《危機感ありませんよ》
……ログさんの呆れを無視する、というか聞こえないふりをする。
そのついでに、精霊を触る。そう、この子が赤ちゃんだと思って、優しく触るのだ。
やさしく、やさーしく……。
――枝が、この子に触れた。
その瞬間、胸の奥が、かすかに温かくなる。
《魔力反応、安定。対象は貴方様を『力の源』として認識しています》
今度は精霊の方から、俺に触れる。触れるというより、体当たりに近いけど。
幹の内側が、すっと軽くなる。
この精霊は自我が薄いらしいけど、意識があるように見える。
幹に触れながらあちこちに這ったり、しがみついてくる感覚がする。
何故だろうか、胸の奥に、じんわりとした熱が残った。
……俺、親か――
精霊が、俺の目の前でくるくると回る。
玉だけど、意外と可愛くて父性が湧いてきたのは秘密にしておこうと、そう思ったのだった。
◆◆◆◆◆◆
やはり、思ってしまう。
何故、レベルアップは簡単にできてしまうのか。
特異スキル『鍛錬成長』の効果は、経験値を多く獲得できる程度で良いんじゃないのか、と。
でも他の可能性を考えると、『鍛錬成長』の効果は最適な気がしなくもない。
魔力を巡らすことが重要なのか、それとも生物が魔力に順応しているのか……。
レベルアップに必要な経験値がアホほど低いのか。
この二択だ。
『うーん……保留! 分からん!』
何も判断できない。精霊が愛娘のように可愛い過ぎる。
――子供はいないけど、精霊のせいで、それどころじゃなかった。
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