5.ラビリンス初攻略
お供え物の正体が、『伸縮自在の魔剣』と『真紅の金剛石』だという事が判明した。
魔剣と、宝石。魔剣は名前以外にヤバい事を説明されたが、宝石は名前以外は何も分かっていない。
これからどうするべきか。それは――
『扱えるわけねえし、置いておくか』
〝一旦無視する〟である。
そもそも、魔剣だかなんだか知らんが、武器類は使えない。なんたって、俺は〝手足〟がない訳だからな。
宝石は性能とかほぼ全て不明。説明書が無ければ、扱おうにも扱えないのだ。
よく分からないので、放置するという結論に至ったのだ。
《単に面倒臭いだけなのでは……?》
ええい、うっさいうっさい! 結局使えないんだから、意味無いだろ!
しかも、片方はログさんが教えてくれないし……。
《――そうでしたね》
おい、忘れてたのかよ? ついさっきの出来事のはずなんだがな……。
認知症疑惑が出始めたぞ。
まあ、ログさんが隠しているなら仕方ないし、放ったらかしにでもしていた情報について考えるかな。
伝言ゲームの結果は――どんなんだったっけな?
《一、この森は『ヴァルデリン森林』と言って、カルミリス王国っていう国の領土内。人間達にとっては、魔物とかの危険は他とは格段に少ない。
二、カルミリス王国は現在、魔物が異常に強いことに悩まされている。〝迷宮〟という魔物発生スポットの情報も出てきたので、それと関係してるのかもしれない。後、カルミリス王国に限らず、別の国も同じ『魔物』に悩まされている。
三、貴方様――ただの〝木〟が生まれたことで、周囲――カルミリス王国が騒いでいる》
お、おう。ありがとう、ログさん。
伝言ゲームは急に思いついたから、試しに実行してみたけど――意外と、手に入れた情報自体は有益そうだぞ。
特にカルミリス王国とやらが苦難に満ちてそうだけど、一番気になるのは――
迷宮――ラビリンスだ。
ダンジョンとは違うのか、という疑問は多少あるが、同一視される場合もあるし、似たようなものだと捉えても良いんだろう。
迷宮、ねえ。行ってみたいな……。
なんて期待を膨らませていると、突如、ピカーン! と頭上に豆電球が光ったように閃いた。
『ログさん、俺は名案思いついたかもしれん』
《……なんでしょうか?》
『枝を伸ばして、迷宮にカチコミに行く!』
自信満々に言うと、ログさんが呆れたように質問する。
《――枝はまだ動かせないはずでは?》
フッフッフ……その質問、絶対にすると思ってたぜ……!
俺はなあ、ずっと練習した甲斐あって、枝を操る自由度が上がったんだぜ。今のままなら、暴走する危険はほぼ無いし、暴発して動物達に怒られる心配もない!
ちびちびやってたんだぜ? 葉っぱとかは眠れても、俺自身は眠れないからずっと練習し続けていたんだ。
まあ、傍から見れば『まだ懲りずに挑戦しているのか、コイツ』程度に思われていたのだろう。まあ、俺には関係ないけどな。
だがまあしっかし、本当に苦労した。まさか手足のように動かすのに半月もかかるとは……。
そう説明すると、ログさんは納得したような声を出す。
《なるほど……では、視覚はどうするのですか?》
――視覚?
あ、ああ。勿論、考えてあるとも。
『し、植物は全身が目であり耳だろ……』
《――わあ、そうですねぇ~。早速、枝を伸ばして探しましょう》
ログさん、棒読み止めて欲しい。俺のガラスメンタルが粉々になる。
だが、すぐに立ち直るのが俺クオリティなのだ。
『っしゃー! 早速、枝を伸ばしまくるぞーーーッ!! ……手探りで』
迷宮、どこにあるのか全く分からん。
《……行き当たりばったりですね》
〝臨機応変〟と、そう言って欲しいものだ。
そう思いながら、俺は一本の枝に意識を集中させる。
◆◆◆◆◆◆
えー、現在、夜。体内時計的に夜中の二時くらい。
滅茶苦茶、疲れました。枝伸ばすだけなのに。
迷宮探すのにクッッッソ時間掛かった! いやもう、超を付けてもいいくらいだ。
本当、どこにあんねん。岩陰とか洞窟の最奥とか、迷宮のベターな場所全部探しまくったわ! 穴の中とか探してもないしよぉ!
そんで、結局場所は森林の街道の入口!
ふざけるな、無駄にシンプル故に余計時間掛かったんだが!
『ハァ、今は疲れたので、明日の昼から攻略始めるわ。おやすみログさん――』
《……マイナーなところから探すからですよ》
ログさんが呆れの言葉を口にするが、それはもう、ほぼ眠りに近い俺の耳に届くことはなかった。
小鳥が鳴き、草木が風で揺れる。
俺は、枝を伸ばしっぱなしで休憩していた。
『さて、と。そろそろ攻略を始めるとしますかね……』
さっき気づいたけど、眠りに近いことはできるんだな。人間の時みたいに深く寝ることはなくても、眠りが浅い状態みたいにはなるっぽい。
意識が葉っぱと同期し始めたか……?
《そういえば、視覚は大丈夫なのですか? 探していた時も、どうやって探していたのか分かりませんでしたし……》
あの時聞かなかったのが唯一の間違いだな、ログさんよ。
そこについては、全く問題がない。探す前に、自分のステータスをちゃんと確認していたのさ。そしたら、見つけたのだよ。
『魔力感知』とか言う、最高のスキルをな!
周囲の魔力を感知して、視覚や聴覚を補うことができる――とスキルに鑑定したら分かった。
探している最中に試してみたら、予測通り先端の枝から半径二十メートルくらい《《視える》》ようになった!
これで、鑑定重ねができることが分かったし、魔力感知の内容も分かったのだよ。
――という訳だから、枝だけで突っ込んでも全くの問題なしなのだ。
さて、枝を伸ばしまくる。
地を這う触手のように、クネクネとうねりながら伸ばす。
現地から見たら、ものすごい化け物だろうな……。いや、植物が急成長したようにも見えるかも?
まあそんな感じに、枝が内部へと侵食していく。
『見た感じ、罠らしきものは無さそう?』
〝迷宮〟と言うには異様だな。道には魔物どころか罠一つない感じだ。
罠がなくて魔物だけの迷宮、と言われたら納得できるが、この迷宮は何かが生きている感じが一つもない。
物凄く、気味が悪かった。
嫌なほど順調に、迷宮の奥へと進んでいく。
道中はまるで静寂。迷宮そのものが眠っているような気持ち悪さを常に感じている。
……なんだ? この違和感。
捩じ切られたせいで、部品がうまく繋がらないような感覚。
そして、最奥の部屋へ辿り着くと――
奥の部屋で、無数の光点が闇を照らす。
『……あちょっ!?』
ビキッ……ッッギギギギギギ!!
という、目覚めるような、無理矢理捩じ切るような音が響く。
《反応多数。来ます!》
ログさんが告げた次の瞬間。
奥から、雪崩のように魔物達が押し寄せて来た。
青いゴブリンや六本足の狼など、強そうな魔物が大量に。
『うわああぁぁ!? おいおい! ゴキブリみたいにワラワラ出てくんじゃねえよ!!』
《初見殺しな配置ですね》
奇妙すぎるぜ。配置するにしては少し雑すぎやしねえか?
そんな事を考えていても、意味がない。まずは、現状を切り開くアイデアを――
思考しようとする一瞬、俺が伸ばした枝に噛みつかれた。
『え?』
別の魔物も噛みつき、枝の一部が食いちぎられる。
その拍子に壁にぶつかり、床から毒煙が噴き出した。
『はあ? 罠あんのかよ!』
罠に驚いた魔物達が暴れ、別の罠が作動し、また暴れ、作動する。
そこから見境無く攻撃しているせいか、同士討ちのような事態が勃発した。
痛みは無いが、この魔物たちをどうにかしないと迷宮攻略なんてできないぞ……。
針で軽く刺されたかのように、チクチクする感触。
おもちゃを買って欲しいと泣きわめく子供のように、ギャアギャア、グルルロアァと騒ぐ敵。
チッ、腹立つなぁ――!
《ここは一旦退避を……って、何を――!?》
『ああああぁぁぁ! もう、うざってぇぞ! テメェらなんかに時間かけらんねぇんだよ!!』
ログさんの忠告を無視し、俺は怒りのままに、思い切り枝で薙ぎ倒す。
ドドドドドドドドドゴドゴドゴドゴゴゴゴーン!!!
枝の攻撃で遥か彼方へ吹き飛ぶモンスターズ。
目の前で起きた光景に呆れるログさん。
建物や魔物の被害などお構いなしに枝を暴れさせる俺。
カオスだった。
『クソが!! レベル上げの要素あったら時間かけねぇんだよ! 失せな! 待ち伏せくらいできるくらい頭が賢くなってから出直して来い! バーカ!』
本当、戦いたくない時に鉢合わせするのが一番ムカつくんだよ。
内心の苛立ちをむき出しにしていると――急にステータス画面が表示される。
○名前:なし レベル十五
○種族:神樹……世界樹(幼体)
○称号:神樹の芽生え
○加護:創造神の加護
○魔法:
・『樹木魔法』
・『大地魔法』
・『精霊魔法』
○技術:なし
○耐性:
・痛覚無効
・自然無効
・地属性無効
・水属性耐性
○能力:
・鑑定
・念話
・再生
・枝伸縮
・魔力感知
・森羅共鳴
・配下創造
――なんか変わってる。レベルが増えとる。
ということは? 鑑定してみる?
思い立ったが吉日、『鑑定』と声を出して鑑定する。
[LEVEL:一定の経験を積むと、数字が増える指標の一つ。――[まだ鑑定できません]]
鑑定重ねできることは知っていたから、試してみたけど……ふむ、ゲームと同じ感じだな。
この「まだ鑑定できません」が気になるけど、レベルを上げていけばいつか分かるのかな?
まあ、そんなことよりも。
『レベル要素ができた。ということは――』
《ということは?》
『レベリングじゃーーーッ!!』
迷宮に居た魔物達、ぶっ飛ばしまくってやる! そんで、レベル上げまくってやるぜ!
待ってろ魔物共、今すぐ俺が倒しに行ってやる! 良かったな!
――滅茶苦茶調子に乗っていたが、それはすぐに砕かれることとなる。
さっきの魔物が、今の迷宮で一番強い個体であったこと。そして、さっきので迷宮内の魔物が壊滅したので、ここではもうレベリングをできないことを。
数時間探し回って、やっと思い至るのだった。
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