幕間:神に捧げる祈り
アデレテレ教。
それは、この世界――いや、全世界における最古の宗教。
始まりから歴史を目にし続けた者が記す、神話の原点だ。
始まりの神は『イザラム』という創造神だ。
その系譜である『七創神者』である。
天地――
雷霆天嵐――
火炎水泡――
天明闇黒――
創造化身――
破壊必滅――
調和平衡の、七人の創造者で構成されている。
信仰しているのはイザラムと、その『七創神者』なのだ。
開祖は、その名の通り〝アデレテレ〟という神だ。
治癒と更生を促す神とされ、人類の守護者として信仰されてもいたのだ。
そんな神が人間の住む場所に降り立ち、当時の人間たちと宗教を作り上げた。
そして、人類に無類の幸福と信仰をもたらしたのである。
――と、アデレテレ教の書物には書かれてあった。
ゴォーン……ゴォーン……。
――教会に鐘の音が響く。
鐘が鳴るのはいつも、祈りの時だけだと定められている。
だが祈りと言っても、今回は少し違かった。
救いや赦しでもない〝なにか〟を目的とした祈りだった。
女性が、教会の後陣に向かって跪く。
彼女の纏う純白の礼装と、碧眼が煌めいていた。
「イザラム様。どうかこの大教会にて捧ぐ祈りを聞き給え――」
女性が合掌し、目を瞑る。
風が吹き、祭壇周辺に飾られた『トケイソウ』が揺れる。
「この世界は今まさに、憎き蟲が再誕せんとしています。貴方様が再臨しませんと、彼の〝絶対王〟に蹂躙されかねません。私の祈りが聞き届いたのならば、人類の――いや、世界の安寧をもたらしてください……」
深々と礼をし、身廊を歩く。
そして、女性は宙を見つめる。
〝それ〟を見て、苦虫を噛み潰したように眉をひそめた。
「まさか〝竜王〟が神樹の仲間となるとはね……他の方は気づいているのかしら?」
竜族は、皆総じて誇り高い。
下位でも、自分より格下だと感じた相手を見下している。
より強く上位であるほど、格の関係無しに誇り高いのだ。そして、竜王はその最上位だ。
龍族の龍王のような原初を生きる怪物を除いて、世界有数の強者であった。
その一角が、神樹に付いた。
その事実を前に、女性は体を震わせた。
といっても、彼女の場合は〝武者震い〟である。
「まあ、イザラム様の味方となってくれるなら、どのみち問題はありませんね」
女性はそう結論付け、教会の掃除に勤しむのだった。
◇◇◇◇◇◇
強風が吹き、地面の氷が削れ飛ばされる。
酷寒で、体を震わせる。
数多の生物が死滅するグアート氷山にて、《《龍王》》は考える。
「はぁ……イザラムは何を考えてんだか」
創造神たるイザラムが復活するのは容易い。
復活するのは、だ。
彼女が頭を悩ませているのは、イザラムの復活方法についてである。
完全なる力を取り戻すには、恐るべき時間と年月がかかる。それも、世界をいくつ吸収しても足りないほどに。
「効率の良い復活方法か……やはり、あの方法しか――あれ? あの方法って何だっけ?」
容易に力を取り戻す手段は、彼女たちのような長命種ならば見つけられるのかもしれない。
――しかし、彼女はバカであった。
いや、場合によっては脳筋と言えるのかもしれない。
だがそれでも、効率のいい復活方法など知らないのである。
知っても、すぐに忘れるのである。
「わっかんないなー。ていうか、毒王達……あいつら、まだ生きてたの? ヨルグと五天は確実としても、あいつらがどうやって生き延びてたのかは……分っかんないなー」
そうして、何も前進しないまま龍は飛翔する。
愛する創造神を復活させ、憎き宿敵を打ち倒すために。
〝龍王〟は、飛び立つのだった。
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