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49.赤き竜王が仲間になった!

「ドラゴンが……喋った……??」


 アイビーとアムスが驚愕している。

 ラービは……なんか凄い目を輝かせている。かっこいいものを見たみたいな反応だ。


『我を救ったのは、貴様か?』


 その巨大な瞳が、じっとこちらを見据える。


「そうだが……なんだ?」


『……そうか。我を救ってくれた事、感謝する』


 低く、重い念話が響く。


『翼を傷つけたことも、治癒で問題ない範囲だ。許してやろう』


 このドラゴン……やけに上から目線だな。

 だけど、感謝は忘れていない。


「そうか。じゃ、俺達はゴブリン討伐で忙しいから――とはなんないんだよな」


 こいつは、間違いなく何かされていた。

 毒状態に、魔力汚染――の正体は分からないが、本能的に“触れてはいけないもの”だと理解できる。

 ましてやこいつは上位竜だ。並大抵の状態異常は効かないはず。


「お前、誰と戦った?」


 だから、率直に聞くことにした。

 ドラゴンは一瞬渋ったが、重々しく息を吐き、話す。


『はあ……分かった、話そう。だが、先に名乗って貰わなくてはな』


「ああ、失礼。俺はEランク冒険者のセルウス。この魔女っぽいやつが同ランクのアムスだ」


「私は――Aランク冒険者のアイビーよ。〝響(きょう)嵐(らん)〟なんて呼ばれてるけど、よろしくね」


 皆が名乗ると、ドラゴンは訝(いぶか)しげな表情を浮かべる。


『……〝響嵐〟か。まさか、彼の王の称号を冠しておるとはな……。失礼、なんでもない』


「え? あ、ああ……それで、ドラゴンの名前はなんだ?」


『ドラゴンと言うでない!』


 その咆哮が、空気を震わせる。


『我こそは――』


 一瞬、魔力が揺らぐ。


『〝赤き竜王(レッドドラゴンロード)〟たる「ウラカトル・ノルガランス・ブリギッド」である!』


「……ウラカトル……ノルファング? ……ブリキ?」


《ウラカトル・ノルガランス・ブリギッドです》


 あ、うん。長い。ふっつーに長い。

 略してみるか? 普通にウラカトルって呼ぶのもアレだしな。


「……分かった、今からお前は『ウラノス』って呼ぶわ」


 長すぎる。覚えられるかこんなの。


《頑張れば覚えられます》


 いやなー。人の名前って、どうしても覚えられないんだよなあ。

 ピカソみたいに死ぬほど名前が長い人がいないだろ。それに、言いにくいし。


『ぬ!? 我が偉大なる名を省略するとは――何たる無礼だ!』


「はいはい拒否権はありませんよっと」


 こういうときは、すぐに話題を逸らすテクニックが大事だ。

 そっから、なんで毒にまみれていたのかを聞こうとするが……。


『――うぐっ!』


 ウラノスが苦しそうにうずくまる。


「お、おい。大丈夫か……?」


『も、問題無い……クッ彼奴(きゃつ)め……魔力汚染も仕込んでいたのか……』


「彼奴って……そういえば、竜王様がなんで毒まみれになってたんだよ? その〝彼奴〟が関係あるのか!?」


『あれは、ちょうど四日と三時間前のことだ……』



*



 ――四日と三時間前。

 我は、優雅に天空を巡っていた。

 すると、パーマル古代都市という遺跡から、何やら濃密な魔力を感じたのだ。


 魔力というには、不自然な程に流れ出ているのだ。

 魔力の放出量は、浅い呼吸のように少しずつ出る場合が多い。

 多く出ると言っても、精々深呼吸程度だ。


 なのに、遺跡からは『濁(だく)流(りゅう)』――いや、『奔(ほん)流(りゅう)』のように魔力が放出されていたのだ。

 流石の我もおかしいと感じ、それを確かめるべく地上へ降り立ったのだ。


『…………』


 周りを見渡しても、生物らしき姿は見えない。

 伝説の生物だとしても、その恐ろしい気配ですぐに分かるはずだった。我は一度、出会ったことがあるからな。


『勘違いだったか?』


 そう呟いたが、辺りを探索するのはやめていない。

 そこで、我は思い出した。『魔力感知』があったではないか、と。

 すぐに魔力感知を使用すると、今までの探索が無意味だったかのように、一瞬でその魔力の持ち主と場所が分かった。


『ふむ! 古代都市の高塔、その頂上だな!』


 我は翼を広げ、尖(せん)塔(とう)にいる『怪物』目掛けて飛翔した。

 尖塔に佇み、どこか遠くを見据えている怪物。


 紫(し)黒(こく)の外骨格をまとい、その尾は何もかもを貫くが如く鋭い。

 先端からは毒のような液体が出て、それが地に触れれば、煙を上げて溶けていった。

 《《人型》》の、蠍(サソリ)だ。


『……貴様は一体、何者だ?』


 我が問うても、怪物は何も答えない。

 だが視覚情報から見て、紛れもなく蟲魔族(インセクター)だと我は理解した。

 そしてこのまま放置していれば、必ず脅威になると考えたのだ。


『答えぬなら、死ぬが良い――』


 そうして我は竜の吐息(ドラゴンブレス)を放とうとしたが――

 ――動かない。

 身体が、言うことを聞かなかったのだ。


『――ッ!?』


 翼の自由も効かなくなり、地面へと落下していく。

 落下による激痛が走っても、身体の痺れは消えずに、意識が朦(もう)朧(ろう)とする。

 尖塔にいる怪物を睨むことしか、できなかったのだ。

 怪物を見る我とは違って、怪物は我ではなく『天空』を見ていた。

 すると怪物は、興味を失ったかのようにため息をつく。


「ワタシは〝毒(ドク)王(オウ)〟――」


 恐ろしく冷たい声だ。言葉に込もった感情など、全く持って感じられなかった。

 毒王――その称号を聞いて、我の意識は消えたのだった。



*



『そこから目が覚めたら、怪物の姿は無かった。毒の痺れは先程まで続いていたが、貧弱な解毒薬で消せるほど弱まっていたようだが……あの毒は、薬――万能薬(エリクサー)でも解毒できるものではないな。少なくとも、受けた感覚ではな』


 ……やばくね?

 さっきの話で、かなり――いや、ヴェール以上の脅威かもしれないと思った。

 蟲魔族(インセクター)つうのはよく分からんけど、ヴェールみたいなやつか?


 それに〝毒王〟――

 ウラノスが秒殺されるほどの力を持っているのか……。それに、毒も超強いとのことだ。


 アイビーは驚愕の代名詞と言うべきお手本の顔をしており、ラービは話を聞いてからずっと頭を抱えている。

 アムスはまだ年齢的に幼い――ていうか、一週間も生きてないのか。だからあまり理解できずに放心していそうだった。だが、誰も軽口を叩かなかった。



「……なるほどな。毒王とやらが放置されたままじゃ、必ず何かしらの災害が起きる――みたなことを言いたいんだな? ウラノス」


『うむ……何故省略されたままなのかが気になるが、そうだ』


「私でも普通に勝てそうにないわね」


『ほほう? 小娘、まさかとは思うが、この我に勝てると思っているのか? 瀕死の我を見て、汗をかいておったくせに』


「人間なら、汗くらい誰でもかくわよ。竜王くらい、私ならどうとでもできるわ」


 なんで張り合ってるの?

 いや、ともかく。ともかくだ。

 毒王は倒すべき相手、というのがよく分かった。その強さを間近で見たウラノスの情報を参考にしたい。

 それに、俺一人じゃ無理だ。ヴェールより強い可能性がある以上、アムスと協力しても勝てる見込みは少ない。だが、ここで竜王が加わってくれれば……!


「なあ、ウラノス」


『だから省略をするなと――!』


 そう言いかけるが、言い切ることはなかった。

 俺の顔で、俺の安直な考えを伝えさせる。


『――貴様、本気か?』


「本気もなにも、それが前提だ。ウラノス、俺の仲間となれ」


◇◇◇◇◇◇


「本気もなにも、それが前提だ。ウラノス、俺の仲間となれ」


 それを聞いて、ウラカトルは沈黙する。

 現状では対抗できないから仲間となる考えと、王である誇り(プライド)で葛藤しているのだ。


(……我は〝竜王〟だ。孤高の王である以上、仲間などという同列の存在があってはならぬのだ)


 しかし、一人では毒王と戦えないのだ。

 牙を剥いても、一瞬でその牙は粉(こな)微(み)塵(じん)となってしまう。

 それを理解しているからこそ、どうするべきかを考えているのだ。


(毒王……)


 ウラカトルは、毒王との秒殺劇を思い出す。

 触れることも敵わずにその毒に侵された己と、それを見さえもしない毒王――

 これ以上ない屈辱なのは、言うまでもなかった。


『……セルウス、だったな?』


「ああ。それで、返答はどうだ?」


『いいだろう! 我は貴様と《《同列の存在》》となろう。この竜王の力、存分に使うが良い!! グアハハハハ!!』


 ウラカトルは叫ぶ。

〝仲間〟としてではなく、〝同列の存在〟――どうしても、仲間という表現は許されなかったのだろう。

 しかし、セルウス――リベルの内面にある覚悟を感じて、ウラカトルも応えずにはいられなかったのだ。


「よし! 決まりだなウラノス! よろしくな」


『グアハハ! 無論だ』


「よろしくね、竜王さん?」


『小娘が、生意気を言うでないかッ!』


「よろしくお願いします! 竜王様!」


『ふはは! 中々見る目があるでないか!』


『よっろしくねぇー! ウラノスくん!』


『ウラノスではないわ! ……ん?』


 こうして一介の冒険者パーティに、赤き竜王(レッドドラゴンロード)が加わったのだった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」

そう思っていただけたら、感想や評価をいただけると嬉しいです!


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