48.エマージェンシー:瀕死のドラゴン
「グオオオオオオオ――ッ!!」
ドラゴンは咆哮するが、一ミリも動かない。様子見か?
ふむ。ドラゴンと戦うのは、ワイバーン以来だ。
バーサスドラゴンで気をつけるべきことは、全身の動きは勿論、ブレスを撃つ際に震える喉の二つだ。
このたった二つだけでいい。飛ぶのはまあ、今じゃ魔力弾ぶつけるだけだし。
アムスが両手を前に出し、魔力を溜める。恐らく、謎の樹木の時に繰り出す技でも放つつもりだろう。ラービはアムスの肩に乗り、ドラゴンの動きを観察しているだけだった。
アイビーはどこからか取り出した双剣を構え、ドラゴンの背後にゆっくりと移動する。
形は、ドラゴンの目の前が俺。その右隣がアムスとラービ。ドラゴンの背後がアイビー。
数分の静寂。
木の葉が揺れるが、小鳥のさえずりは全く聞こえてこない。
いつ動くんだ――そう思った瞬間、ドラゴンの喉が震える。
「来たか……」
喉が赤く光り、わずかに熱を感じる。そして、ドラゴンの口が大きく開かれる。
俺は地中に待機させている〝根〟に力を込め、いつでも対ブレスの〝竜の穿根〟を繰り出す準備をする。
ブレスを放った瞬間、〝竜の穿根〟で相殺して頭を貫くという作戦だ。
《なるほど、いいですね》
だろ?
っと、気を取られるんじゃない。いつブレスが放たれるか。
ドラゴンの喉が光る。次の瞬間――
轟音と共に、炎が吐き出された。
伏せたときはよく分からなかったが、立っている今ならよく分かる。
それはまさに灼熱の業火。
地面を抉り、空を焦がす。
動物や魔物も、現場の近くにいただけで火傷し、のたうち回っていた。
飛竜とは別物で、比較にもならない。これが竜の……。
上位竜族の、ブレスか……!!
ドラゴンの背後に居たアイビーが冷や汗をかいている。今にも動き出しそうだ。
アムスは、情報処理に手一杯のような顔をしていた。だが、ラービだけが情報整理が済んでいるようだ。
ああ、このブレスが竜王クラスならば、どれほどの威力なのだろうか。考えるだけでも鳥肌が立つ。……木でできた肌だけど。
そう、『思考加速』で考える。
「……?」
ブレスを放つドラゴンを見て、何故か違和感を覚える。
だがそれに時間を使ってる暇はない。
炎が俺の目の前にまで迫る。
「食らえ、〝竜の穿根〟――ッ!」
地面から根が出る。
螺旋状に回って、ドラゴンブレスをかき消す。
「グオ!?」
竜の穿根は、今は五大属性無効である『火属性耐性』を纏わせているのだ。
その火属性耐性を纏った根が、ヒートシールドのように炎を裂く。
根が竜の吐息を破壊し、そのまま旋回してドラゴンの頭目掛けて降下する。
すると、ドラゴンは飛翔する。が、翼の膜に当たり、破れる。
そしてそのまま地面に自由落下し始める。
俺は、それに激しい既視感を覚えた。
ワイバーンのときと同じだった。
翼に当たり、飛べなくなり、落下する。
ドラゴンは、飛ばないのが好きなのかね……。
地面に激突した痛みに悶えていたので、『痛覚鈍化』は未所持だと見られた。
「貴方、『樹木魔法』を使えるのね。かなり上位だからびっくりした」
まあ持ってはいるけど、使ってない。
俺の身体だから、自由自在に扱えるだけなんだけど……いい感じに勘違いしてくれた。
これで神樹だということがバレたら、本当に面倒なことになりそうなので、お口チャックしておく。
「主さ……セルウスは凄いですよ! 剣術も使えますし!」
何故か、アムスが自慢する。
主を褒められて嬉しい、ということか?
それはさておき、ドラゴンのことだ。
「なあアムス、アイビー。このドラゴン、さっきからおかしいんだ」
「おかしい……?」
「ああ。ワイバーンならこんなあっけなく終わることはあるが、こいつはどう見てもそれ以上の力を持っている。なのに、ワイバーンと同じ終わり方だなんて、おかしいと思わないか?」
「確かに……??」
今観察してみると、他におかしい点が見つかってきた。
鱗が所々割れているし、口元に血が吹き出している。
一瞬俺の攻撃のせいだと思ったが、翼に――しかも痛覚がないはずの『膜』に当たったぐらいで、吐血するほどのダメージを食らうか?
「……セルウスさん。ドラゴンの血が、黒っぽいです……」
アイビーが指摘する。
まあ、確かに黒い。
元々そういう色だという説もあるが、アイビーの様子からそうじゃないようだ。
『なんか、魔力の乱れも起こってるみたいだわ。ちょっと鑑定してみて』
ラービは原因が分かっているようだ。
促されて、鑑定を発動する。
さっきは状態異常とか見てなかったし、どうなっていたのか……?
《状態異常確認をオンにします》
あ、そういう感じね。
すると、いつものステータスに加えて、右に項目が追加された。
○状態異常:猛毒・魔力汚染
「……これは」
「え? どうしたんですか、セルウスさん?」
どう考えても、俺達と戦う前にやられたようだ。
毒……それも、ドラゴンの身体を侵食するほどの。
「なんか、解毒薬みたいなの持ってないか?」
「私、常備してますが……ドラゴンに使うんですか」
「後で答える。あと、これかけてもいいやつか?」
「はい、いいやつです」
アイビーの解毒薬を受け取り、すぐさまドラゴンにかける。
……流石に、すぐには回復しない。
だが数分経てば、黒く流れていた血は鮮やかな赤色を取り戻していき、それに伴って顔色も良くなっていった。
どうやら、無事に毒を消せたようだ。
「……これでいいのですかね」
アムスが呟く。
「救えるものは救っておく。それがどんな結果になろうとも、俺はいい方向へ進むのを諦めない。それだけだろ」
「……そういうものですかね」
「そーゆーもんさ。じゃ、ドラゴンに用はないし、サクッとゴブリン狩って帰ろう」
そうして、ゴブリン討伐に勤しもうとすると。
地面が暗くなった。
曇ったなどの天気の仕業じゃない。ドラゴンが、起き上がったのだ。
「……チッ! まだやる気か!?」
『待て……人間よ』
武器を構えると突如、誰かからの〝念話〟が聞こえてくる。
ラービよりも、荘厳で低い声――多分、男だ。
唯一の男は俺は、念話で喋っていない。ということは――
「お前か? ドラゴン――」
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