47.エンカウント:初手からドラゴン
初めての依頼は、薬草集めとかゴブリン討伐とか、そういう簡単な部類がいいなー。
そう思いながら掲示板を見つめる。
『薬草集め』や『影の森のゴブリン討伐』などの思った通りの依頼もあれば、『迷宮のマッピング』や『高ランク魔物の生態観察』のような情報を集める依頼もあった。
しかも、低ランクと高ランクで蝋スタンプの色が赤から青へと変わっていたので、見分けやすかった。
「アイビーと組むEランク冒険者か……」
「あいつ、前のパーティ三つ壊したんだろ?」
「どうなるか見ものだな」
後ろから冒険者たちがクスクスと笑っている。
そんなにアイビーがヤバいやつなのか?
「運がねぇな」
「それな。アイビーと組んだ時点で終わりだぜ」
まあ、所詮は外野の声だ。
取り敢えず、先に依頼を選んでおこう。
「オススメの依頼とかあるか?」
「あ、そうですね……Eランクでしたら、ゴブリン討伐が妥当だと思います」
「ふむ、じゃあそれにするか」
依頼書を手に取り、受付の隣〝依頼所〟に持っていく。
そこの受付嬢に渡したら、布でできた袋を渡される。
「そこに討伐した証拠として、なんでもいいのでゴブリンの部位を詰めてきてください。依頼されている数は十体ですが、それ以上討伐しても構わないとのことです」
「承知した」
討伐したと口頭で伝えても、誰も信じやしない。
ならば、討伐対象の部位を切り取って、持ってくれば良い。それならば、信憑性が増す。
そういう制度なのだろう。
「じゃあ影の森に行きながら、自己紹介をもう一度やるか」
「そうですね主さ……セルウス」
ちなみに、アムスは名前呼びさせている。
いつも主様と言われたら、色々とまあ……面倒臭いことになる。
なので、その対策だ。
「ハイ。では、行きましょうか」
アイビーが先導して、影の森への馬車道を歩くのだった。
◆◆◆◆◆◆
軽く自己紹介をしたので、情報整理をしておこう。
もちろん、鑑定で。鑑定を使用できるのは俺とラービだけ、神樹だという情報漏洩はまだ大丈夫だと信じたい。
ああ、こうなったら『鑑定偽装』なんてのがあったらな……。
そう嘆きながら、俺は鑑定していく。
○名前:アムス
○種族:守護粘魔
○称号:なし
加護:世界樹の加護
○技術:なし
○魔法:なし
○耐性:
・五大属性耐性
・物理耐性
・痛覚無効
○能力:
・魔力感知
・変質
まずはアムスから。
名前から耐性は知ってるから飛ばしといて……重要なのは能力だ。
『魔力感知』は言うに及ばず、魔力を感知するスキルだ。俺も持っているし。
次に『変質』だが――予想するに、自分の特性を変質させる、みたいなものか?
《似たようなモノですね。現時点でアムスが使用できる変質は、防御力が高まる『鋼鉄化』魔力を高め素早くなる『高速化』の二つです》
ふーん、ゲームのバフみたいなものだな。
使い手が使い手なら、それなりに手ごわそうな能力だ。
さて、次はアイビーだ。
○名前:アイビー・ノクティス
○種族:基人族
○称号:〝響嵐〟
○加護:なし
○技術:『気闘法』
○魔法:なし
○耐性:
・物理耐性
・痛覚鈍化
○能力:
・剛力
・加速
うーん。
強いらしいと思っていたけど、スキル自体はそこまででもない。
いや、人間だから技術を磨いているのかもしれない。ほら、気闘法があるし。
《根拠がありません》
みなまで言うな。それは俺が一番分かってる。
称号だけが気になるけど、大丈夫そうだな。
最後にラービだが……何も分からん。
鑑定妨害しているのか? 間隔を置いて鑑定しているが、依然として妨害されたままだった。
不審に思っていたが、そうする内に『影の森』に着いた。
え? 俺の鑑定結果はって?
俺のは更新する度に見てるし、大丈夫だろ。
「ここが〝影の森〟か」
「闇属性の魔物が多いことから名付けられたんです。危険度は低いですがね」
闇か……。魔法とかでなんとかなんないかな?
そう聞くと森の奥から、じっとりと湿った空気が流れてくるような気がした。
「ここですることはゴブリン討伐です。闇属性に鉢合わせたら逃げましょう」
藍色の髪をかきあげて、アムスが言う。
そうして、影の森に侵入しようとしたのだが……。
『リベル! なんか、魔力すごくない!?』
さっきまで静かにしていたラービが、急に騒ぎ出した。
『ど、どうしたんだよ? ずっと黙々となんかしてたのによ』
『それどころじゃないわよ! 魔力感知してんの!?』
そう怒られてから、魔力感知を発動する。
すると、森の奥――いや、空の方からだ。
圧倒的な魔力を持った存在が、こちらへ向かっていた。
その魔力で、空気が震える。
バサァァァッ!!
という羽ばたく音が、やけに大きく聞こえた。
「何だ!?」
皆が空を見上げると、何かが急降下して来た。
地面に衝突し、砂埃が大きく舞う。
段々晴れてくると、その姿が露わとなる。
八メートル前後で、薄橙色の巨体全体を覆う真紅の鱗が輝いている。
赤褐色の目は鋭く、喉を震わせブレスの下準備をしている。
大きな翼は、風を従わせるように開かれていた。
「ど、ドラゴン……!」
一瞬、息を呑むが、すぐに表情を引き締める。
確かに、ドラゴンだ。あの、俺が最初に戦った飛竜と比較するのもおこがましいほどに、威圧感のレベルが違う。
「鑑定!」
○種族:上位竜族……[失敗]
ありゃ、失敗か。
でも、下位であるワイバーンと違って、完全に上位種なのは分かった。
今戦って、勝てるか……。
すると、ドラゴンが喉を震わせる。
口を大きく開けて、喉から赤い何かが――
ワイバーンの時と同じく、嫌な予感がした。
「伏せろ――ッ!!」
俺の声と同時に、赤竜は竜の吐息を放った。
伏せているが、『魔力感知』で周囲の情報は丸わかりだ。
アムスたちは伏せているので、こっちに被害はない。
しかし、ドラゴンの背後にあった影の森が一部焼き払われている。
照準はズレたのか、はたまた熱量だけでこうなったのか。
考えるだけでも恐ろしかった。
「ふう……無事ですか!?」
アイビーが聞くが、俺が感じたとおりに被害は全くない。
それを確認して、アイビーは安堵の息を吐いた。
「ったく、急にドラゴンが敵対してくんじゃねぇよ……!」
「グルオアァァ……」
「あぁん?」
……あれ? 思ったより圧がないな。ヴェールの方が余程怪物だったぞ……?
ていうか、王国に戦争仕掛けたアイツがおかしいだけか。
まあ、そいつに勝った俺も十分おかしいがな。
「やる気だってんなら、やってやるよ!!」
俺の威圧にも、ドラゴンは動じずに咆哮を上げる。
「グアァァ!!」
そうして、赤い竜との戦いが始まった。
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