46.パーティ結成
カルミリス王国に入国するのは、ヴェールとの戦争ぶりだ。
魔法のお陰なのか、戦いで破壊された城門も、ものの数週間で完全に建て直されていた。
復興技術がすごいなぁ、と思いながら俺は入国許可を貰う。
「行って良し!」
今の俺は神樹ではなく、冒険者志望の人間としてなので、入国審査をちゃんとしなくてはならない。
『外見でバレないんですね』
『一般兵士とかは知らないと思う。知ってるのは、一部の強い奴らくらいだ』
『ねえねえねえ!! あの城すごくない!?』
ラービが念話で言った城は、ザ・王道と言うべき城だった。
白と黄色を基本としていて、陽光を受けて輝いて見える。
高く伸びた塔と幾重もの城壁が、威厳を醸し出している。大豪邸とまでは行かずとも、城として力不足というわけでもない。
優しさと威厳を兼ね備えているかのような圧倒感を持つ、そんな城だった。
「すごいな……」
思わずポロッと言う。
それに呼応するように、アムスとラービも口々に感嘆の声を漏らす。
「一度、ああいう城の中を見てみたいものだな」
「そうですね」
「…………」
アムスが返事するも、ラービは見とれていて返事すらしない。
気にしないけど、ちょっとは返事して欲しいな――そう思いながら、ログさんにギルドまでのルートをマッピングしてもらうのだった。
◆◆◆◆◆◆
ギルドに到着した。
カルミリスまで遠いから今朝出たのに、割とスムーズに着いたからまだ昼前だった。
王国直属のギルドじゃないらしく、対応しやすい城門付近に建てられていた。
並のレストランより少し大きめと形容できる外観だった。
「んじゃ、早速行くか」
扉を開けると、怒号と衝突音が耳をつんざいた。
中では革装備の男たちが、胸ぐらを掴みあっている。
「テメェ! その依頼はオレ達が先に見つけたんだよ!」
「んだとぉ? 証拠はあんのかよ! 証拠は!」
「オレが取った、それで十分じゃねぇかよ!!」
仲間と思しき人たちは止めようとしているが、周囲の冒険者たちは逆に囃し立てている。
「うわぁ……治安、凄く悪いですね」
アムスがゴミや吐瀉物を見る目をしながら、引き気味に呟いた。
そんな目で見ないで? バカどもが可愛そうだろ?
《リベル様も、バカと言ってる時点で同類では――》
いや、そんなことはない。
そう断言しとくと、ラービは『あの斧かっこいい!』などと別方向に興奮している。
「……カオスだなぁ」
口が滑るが取り敢えず、巻き込まれる前に登録を済ませておこう。
「行くぞー」
アムスたちを呼び、受付へと歩く。
「よ、ようこそ。カルミリス支部ギルドへ……ようこそ。カルミリス支部ギルドへ……ようこそ。カルミリス支部ギルドへ……」
と、受付にいた女性は廃人のようにその言葉を繰り返していた。
「あの、冒険者登録をしたいんですけど」
「……え? あ、はい! 少々お待ちください!」
一瞬ビクッと身体をはねさせるが、受付嬢は迅速に書類を数枚持ってくる。
「登録ですねー。何人でですか?」
「二人で」
『ちょっと!? 私は!?』
『お前精霊だろうが。登録する必要なし!』
『そんなぁ……』
ガックンとラービは肩に座り込む。
そんなに嫌だったのかね、登録しないだけで。
仕方ない。後で果実でもあげるか。
「了解しました。では、こちらに名前と役職をご記入ください」
そう言いながら、受付嬢に紙とペンを差し出される。
多分俺が書くんだろうけど……字、どうしよう。
この世界の文字、知らない……。
《補助します》
ログさん!!
俺は今日一、ログさんに感謝した。いや、今日どころか人生一かもしれない。
《大袈裟過ぎます。しかも、これしきで今日一……》
ログさんは照れながら言うと、俺の手が全自動機のように精密に動き始める。
《何を書くかは言ってください》
それじゃあ、先にアムスからやるか。
名前は『アムス』で、役職は……見たまんまの『魔導師』でいっか。
そう念じると、驚くほどのサラサラときれいな字を書いたと思う。疑問形なのは、字が分からないから。
《では、次はリベル様の番ですね》
取り敢えず、役職は『剣士』にしといて。
名前は……流石に『リベル』だと駄目だよなぁ……。
神樹の名前として定着しちゃってるはずだし、冒険者の名前と被ってると知られたら、疑いの目がかけられる可能性も捨てきれない。
うーん。何か、なにかいい名前は……。
「……ん!」
閃いた。
ピコーン、と閃きの幻聴が聞こえてくる。
冒険者は、一応仕事だ。
生前の俺は社畜だった。社畜は、社会の奴隷といっても過言ではない。
働いて働いて働くだけだ。
《心中察します……》
何故かログさんが労っている。
疑問に思いつつ、俺は新たに考えた偽名を告げる。
――『セルウス』にしよう。
その意味はそのまま、〝奴隷〟だ。
仕事に打ち込み過ぎないようにと、俺を戒めて考えた名前だ。
そうして、書き終えた書類を提出する。
「……はい。確認しました! 新人はEランクからになります! がんばってくださいね!」
「はい」
そう返事して終わらせようとすると、受付嬢は思い出したかのように言い出す。
「そういえば、パーティは作成しますか?」
パーティか……。
別に二人だし、いらないかな。
そう思った時――さっきまでうるさく叫んでいた男たちが静まる。
囃し立てていた人も、顔を青ざめながら依頼を必死に探している。
振り返ると、赤く輝く長髪を持った女性が、そこにいた。
「あ、アイビーさん……またパーティ探しですか?」
「うん……メンバー募集とかある?」
アイビーと呼ばれた女性は、受付場へスタスタと進む。
赤髪と、禍々しい黒目に隈……よく目立つ見た目だ。しかし男たちの反応を見るに、かなり強いと思う。
強いなら、メンバーにしても良いかもしれない。
「メンバーなら、俺達と組みます?」
そうアイビーに提案する。
アムスが驚愕した顔で見つめているが、気にしない気にしない。
「わ、私と……組んでくれるのですか?」
「まあ、うん。嫌だった?」
「い、いえ。嫌だなんて……ありがたく、入らせていただきます」
おや? 予想外だ。
男たちが怯えるもんだから強気な感じだと思ってたのに、下手に出てきた。
「俺はリベ……セルウスだ。あっちはアムス、宜しくな」
「私はアイビーです。よろしくお願いします! 書類としてはまだですが、メンバーとして行動させていただきます!」
軽く自己紹介をして、アイビーが宣言する。
アムスが『後でお話しましょうか』と念話で圧をかけてくるが、耐える。
「それでは、パーティ名を考えましょうか」
「パーティ名かぁ……」
また名前考えなきゃいけないのか……。
「また後で良いかな……?」
「問題ないです!」
ダメ元で問うてみたが、全然大丈夫とのことだ。
むしろ、パーティ名を付けない新米が多いらしい。
ほないいかー。
まあ名前なんてあとから付けれるしね。
あと、メンバーの男枠が俺だけって、どういうことなんだよ……。
ああ、男のメンバーも欲しいなあ……。
そう嘆きながら、俺は依頼表を見始めるのだった。
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