44.主を守る者
ぷにぷにツンツンと、ラービがアムスをつつく。
まるでプリンのように、その闇のような球体が弾む。
「黒いけど、スライムなのよね? それなりに生きてるけど、闇属性のスライムじゃなさそうだし……」
ラービが呟くと、アムスがそれを拾って答える。
『そうですね、私は闇の粘魔とかでは無いと思います。闇魔法などは使用できませんので』
「そうよね? 鑑定しても妨害表示されるだけだし――」
「あ、それは俺が妨害してる」
「アンタがやってるの!? おかしいと思った!」
ラービがブンブンとアムスの周りを飛び回る。
和気あいあいとしている。
静かな平和と、賑やかな平和、どちらも良いものだ。
「なんで妨害なんてするのさ!」
「プライバシー保護?」
「疑問形!?」
なんて楽しく話していても、異変は突然やってくる。
周りの魔力圧が低下する。
じわりとする、根の脱力感を妙に覚える。
「――あれ? ちょっと魔力薄くなった?」
気の所為かもとラービは呟いているが、その勘は間違っていない。
なぜなら――
『うわあぁ!? 動物たちが一斉に……!』
ヴァルデリンの動物が、一斉に俺のそばへ集まってきたのだから。
リスやネズミなどの弱い動物ならまだ分かる。だが今回は、巨大な大熊などの食物連鎖の上位に位置する動物さえも、怯えてやってきたのだ。
恐怖で震えているということは、何者かがこちらにやってきたということだ。
「…………」
黙って、魔力が薄くなった箇所を見つめる。
ラービも鑑定で探っているようだ。
数分経過して出てきたのは、樹木だ。
「はあ?」
樹木?俺のではない――そう思って間もなく、地面から数本の樹木が出てきて、荒れ狂ったように動く。
大乱という言葉が、そのまま表現されたかのようだった。
俺の白黄色の木とは違って、あの樹木は黒と緑を混ぜた暗黄緑色の色をしていた。
咄嗟に防御に回ったが、被害は甚大だ。
だがそれを気にせずに、樹木は暴れ回る。
「キャア――」
樹木の一本が横払い、ラービに直撃する――かと思ったが。
『大丈夫ですか!?』
アムスが薄く広がり、樹木を受け止めたのだ。
ラービを包み込む形で、アムスの身体は広がっている。
攻撃は直撃したのだが、ボフ……と脈打つだけで、衝撃で吹き飛んだりも、地面が軋んだりもしない。
「よくやった!」
目を丸くしているラービをよそに、俺は感謝する。
衝撃吸収だなんて、俺には思いつかなかった。
それに、俺は守れと命令《《していない》》。自主的に、緊急で守るべきものを判断したのだ。
「あ、ありがとうアムスちゃん……」
『礼には及びません……では、反撃します』
そう宣言すると、受け止めた樹木に絡みつく。
樹木は一瞬驚いたように強張らせるが、動き回ってアムスを引き剥がそうとする。
遠心力に耐え、アムスは進み続ける。樹木を伝って、地中へと潜り込む。
『主様! どうやらこの樹木が、魔力を吸い尽くしているようです。根の中心に、黒い核があります』
「え? あ、ホントだ!」
魔力の低下も、こいつが原因か。
その核を破壊すれば、こいつは死ぬだろう。
そうでなくても、退くだけだと思う。
『――魔力吸収は、俺達にとって一番危険だ。吸い尽くされて死ぬ可能性もある。アムス、お前はどうすればいいと思う?』
『無論、核を破壊します。私達が平和に生きるためには、そうするしかないのです』
少々意地悪な質問をしたが、迷いなくアムスが答える。
覚悟は、元から決まっていたらしい。
『そうか。じゃあやるからには、デカいのをぶっ放せ!』
『了解しました、主様!』
そうして、アムスの魔力が蓄積されていく――
◇◇◇◇◇◇
アムスは能力も、魔法も使えない。
それをアムスは勿論、リベルも感覚的に理解していた。
だがリベルは「デカいのをぶっ放せ」とアムスに言ったのだ。
主は、命令しない。だが、願いはする。
私は、主からの願いならば、断ることはない。
スキルがなくとも、魔法が使えずとも、私は主の目的を達成すべく、その橋渡しとなるのだ――とアムスは考えていた。
言語化はしていないが、考えていることは同質のものだ。
(核を破壊するためには、高威力の攻撃を放たなければならない。だが、私にはスキルも魔法もない。一体どうすればいいのかしら?)
アムスは考える。リベルが絶対になくてはならないという自我――〝自由意思〟で。
アムスは魔物だから、魔力はある。それも、下位竜族を軽く凌駕する量だ。
だが、魔法は使えない。魔法知識も、経験も、何もかもがなかった。
(魔法は技術。だけど、魔力は純粋なる力。それなら、そのままぶつけるのがいいのかもしれないわ……)
だが、それは一度切りの作戦だ。
失敗すればリベル達の魔力が吸われてしまう。
アムスはそれを理解し、地中で身を打ち震えさせる。
『初歩的で美しくない、けど――これしかない!』
体内に溜めた魔力を核に向け、身体を砲台のように変形させる。
地上では、樹木はピンと伸びた状態で静止したままだ。
砲口に魔力弾を生成し、制御しきれないまでに魔力を溜める。
溜める、溜める、溜める――
――溜まり切った。もう制御しきれない。
そう感じたアムスは一気に、魔力弾をぶつける。
『行け! 〝魔力暴爆撃〟――ッ!』
地中での振動が収まる。
次の瞬間、地中から、青黒い柱が立ち上る――
◆◆◆◆◆◆
「――アムス?」
突如、魔力の詰まった青黒い柱が、天空目掛けて立ち上った。
なんとなく、その魔力の持ち主がアムスだと分かった。
吸われた魔力が逆流し、地面へと流れる。
その魔力は俺を経由して、各地へと分散する。
そして、暗黄緑色の樹木は魔力によって焼かれている。
じわじわと、あえて痛みを与えるかのように、ゆっくりと焼失していく。
樹木の傍らで、地面からアムスが飛び出る。
『主様! 魔法ではないですが、魔力を直撃させることによって、樹木を破壊することに成功しました。これならば――』
「オッケー、アムス。それは後で聞いてやるからな」
『――プゥ』
プゥじゃないよ、プゥじゃ。
若干ログさん味が出てきているな……将来が心配だ。
《心外です!!》
「それで、怪我はないか? どこか痛いとか、魔力が安定しないとか無いか?」
『特に無いですね、全然元気です』
「そうか。それなら良かった」
ケロっとしている。
スライムはもしかして、長期戦闘向きの種族なのかもしれないな。
「アムスちゃーんーーーッ!!」
ラービがアムスに抱きつく。
ブルンブルンと振り回そうと腕を持ち上げるが、アムスは一ミリも浮かない。
『ラービ様、ご無事ですか?』
「ええそれはもうバッチリよ! ちょっと遠くから見てたけど、アムスちゃん強いわね~!!」
『お褒めに預かり光栄です。これからもよろしくお願いしますね』
「ええもちろんよ! アムスちゃん!」
「俺は――?」
『主様もですよ』
アムスの実力も知れて、ちゃんと守れることが分かった。
ラービの言う通り、眷属を作って良かった――そう思いながら、俺は二人の会話に参加するのだった。
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