43.はじめてのけんぞく
眷属を作る。
それはまあ、必要なときにやればいいと思っている。
『配下創造』というスキルで作れるが、魔力を消費するとの情報があった。
なので、平和である今は不要だと思ったのだが――
「作ろーよ! なんで作んないのさ、神樹なのに!」
俺が眷属を作らないからと、ラービは駄々をこねている。
「神樹だからって、作ってないやつはいるだろ?」
「神樹は! 全員! 眷属作ってるの!!」
俺以外は作ってると言いたいのか。
だが、それでも俺は作らない。
「今はまだ平和だしな、まだ不要だと思ってる。じゃあ、この話はおし――」
そう告げて会話を終わらせようとすると、ラービが割り込む。
「平和だからこそよ! 今の内に戦力増強しておけば、いざというときに備えられるじゃん!」
「う……た、確かになぁ」
なにかに攻め込まれたりでもしたら、自分で守らないといけない。
俺一人でも勝てない相手も、存在するはずだ。
だから、平和なときに眷属を作って、戦力を底上げするんだ――というのがラービの主張だ。
確かに平和なときにやるというのはいいと思ったが、配下として作るのは嫌だ。
従者として俺に忠誠を誓られでもしたら、俺の救世主になるという目的に反している。
「うーん……」
思わず、悩みの声を漏らす。
それを聞き取ったラービが眷属創造を後押しするように一言告げる。
「貴方、救世主になるんでしょ? 守ると決めたなら、それに備えるのも〝責任〟よ」
従者――戦力単体として使わせるわけには行かない。
だが別の視点なら、眷属もいいかもしれない。
「――分かった。眷属は作る。ただし、条件付きで、だ」
「いいじゃない。腹をくくったのね! 条件は任せておくわ、私が割り込むことじゃないしね――」
条件付きだと言っても、ラービは快諾してくれた。
そうして、俺は眷属第一号を作ることとなった。
◆◆◆◆◆◆
眷属を作る方法は、二種類。
『生産型』と『創造型』だ。
『生産型』は言うまでもなく、魔物の女王が眷属を産む。時間とともに成長して、女王に忠誠を誓う眷属となるらしい。
『創造型』は能力『眷属創造』を持っていれば、魔力を消費するだけで作り出すことができる。最初から成体で、成長する時間が必要ないらしい。
俺は『配下創造』を持っているため『創造型』なのだが、ログさんによると、神樹は創造する魔物の『種族』を選べるとのこと。
「それで、条件って何?」
ラービが待ち切れないとばかりに、ソワソワしながら聞いてくる。
「眷属を作るための条件は三つある」
「三つ?」
そう、三つだ。
最低でも、この三つの条件は守ってもらいたいと思っている。
「まず、一つ目は――」
「ゴクン……」
「俺の忠誠と服従を必要としない〝忠誠不要〟だ」
は? ――とラービが声を漏らす。
「忠誠不要って、眷属なのよ?」
「だから、だ。俺は配下が欲しいんじゃなくて、仲間――共に立つ者が欲しい」
「眷属っていうのかしら? それ」
「眷属かどうかは、俺が決める」
そう断言したことで「ふーん。まあいいわ、好きにすれば?」と、一応了承してくれた。
「じゃあ一番難しそうだった〝忠誠不要〟が承認されたから、当然の権利である〝自我保証〟と、破壊ではなく守護として動いてもらう〝守護存在〟も認めてくれるってことでいいな?」
「あーはいはい。いいわよ――って、さっきとんでもないこと言ってなかった? ねえリベル? ねぇって!」
言質は既に取れているので、ラービの問いには耳を貸さずに、黙々と『配下創造』の説明を聞く。
《――魔力で眷属を創造しますが、かなりの量を使用しますので注意してください》
「ねぇ? 聞いてよ!!」
「あーはいはい。今から作るから待っててくれよ、子供かよ」
「子供じゃないわよ!!」
ラービを宥めつつ、俺は魔力を溜めていく。
集まった魔力は、枝から形をなしていき、やがて果実のようになっていく。
青リンゴの如く青かったが、形が整ってからはどんどん赤く熟していく。
人間基準で言うと、百二十センチほどある巨大な果実だ。
「ほえー。デカいわね」
ラービがそう感嘆するほどだった。
《何の種族で眷属を作りますか?》
「種族か、うーん……悩むなぁ」
破壊者じゃなくて、守護者として。
だが、守るだけではいけない。ちゃんとした戦闘力もある種族――
そこで、俺はある種族を思い出す。
身近で、弱い魔物。守護者と言うには、全然しっくり来ない種族。
《種族は決まりましたか?》
おう、バッチリよ。
そう受け答えすると、《では、名前を付けてください》と返される。
急に「名前を付けろ」と言われても、すぐには出てこない。
だが、今回はすんなりと決まった。
ラービが真顔になり、果実を見つめる。
風は止み、ラービを取り巻いている精霊たちは微動だにしない。
「さあ、起きろ。お前の名は――〝アムス〟だ」
全身に疲労感が襲いかかる。
すぐに倒れるようなものではないが、寝不足のような感覚だ。
恐らくこれが、名付けによる魔力消費なのだろう。
《正確には〝存在定義〟ですね、存在定義とは――》
一回静かにしようか。後でね――とログさんを脳内で黙らせ、ゆっくりと視線を果実に移す。
――ドクン……ドクン……。
数回、鼓動に似た音が鳴り響き、果実が地面へと落下する。
受け止めようとしたが、ラービが腕を横に開いて止める。
落ちた果実は割れ、中から一つの黒い〝塊〟が出てくる。
漆黒で、底が見えない。丸く、弾力がある魔物だ。
「こ、これって……」
ラービは感づいたようだ。
色は通常とは違うが、丸くて弾力のある魔物など一種しかおるまい。
「そうだ。こいつは、粘魔だ」
鑑定をしてみると、確かに粘魔――守護粘魔と表示されている。
スライム――アムスはゆっくりと俺の下へ這い寄り、差し出した俺の手へと触れる。
『主……ですね?』
『ああ、そうだ。念話で会話できるのか、アムス』
自我はある。喋れるのなら、多分大丈夫だろう。
アムスを〝守護存在〟とするのも、問題なく行えそうだ。
さて、最後の〝忠誠不要〟だが
『アムス……それが私の名前ですね』
アムスはプルルンと身を震わせ、高らかに宣言する。
『このアムス、主に永久の忠誠を誓いましょう!!』
『――忠誠は、無くていいよ』
『あ、はい。では、個人的に付き従います――』
――このスライム、割とフランクだな。
まあ、それで問題は無いけどな。
「アムスちゃんね! よろしくよろしく~!」
ラービがアムスを抱きかかえる。というより、アムスがラービを持ち上げているのか。
『これからよろしくお願いします。ラービ様。主様』
こうして、漆黒のスライム〝アムス〟が、ラービに続いて仲間に加わったのだった。
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