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42.ラービという女

 精霊女王ラービ、と名乗っていたが。

 実際本当がどうか怪しい。


 女王とも言うべき個体なら、ましてや精霊族(エレメント)ならば、その魔力量はとてつもないと予想できる。

 だが、彼女には魔力(それ)がなかった。

 いや、少なすぎると言ったほうが正しいのか?

 魔法を使う魔力すらないように感じたのだ。


 あまりにもないせいで、『お前……本当に女王?』と内心で言うつもりが、思わず口に出てしまうほどだ。


「失礼ね! ちゃんと女王よ、女王!」


『なんか軽快だから、現実味がない――というか、ただのホラ吹きにしか思えないんだよ』


「ふーん。じゃあ女王は認めなくても、〝義理堅い麗女〟っていう所は認め――」


『自称っぽそうだからナシで』


「あうぅ……」


 ガックン。とラービが項(うな)垂(だ)れる。

 と思ったら、すぐにシャキッと背筋を伸ばして明るい笑顔になる。


「そのことは後で話すとして――貴方、人型になれる? できるならなってちょーだい」


『――ん? まあ、できるけど』


 促されるままに、俺は根の万能変化で人型に変身する。

 意識を根に移し、目を開けると――全方位から、見られる感覚がする。


「――うっ!?」


 全身に纏わりつくような、いやーな視線。

 前世だったら気づかなかっただろうけど、死闘を経験したから分かる。これ《《も》》、ヴェールの殺気並だ。




「ふーん。やっぱり神樹だったのね」


 ラービがそう呟き、近くに伸びた枝に腰を下ろす。

 キラキラとした鱗(りん)粉(ぷん)が散って、星のように綺麗だった。


「神樹って、分かるもんのか?」


「うん。だって私『鑑定』持ってるし」


 鑑定――俺も所持している、解析スキル。

 俺の場合は、ログさんを介して対象の名前、種族、称号、技術、魔法、スキルなどを見ることができる。

 妨害されるときもあるが、得られた情報から作戦を立てる――というのが俺の恒例の戦い方となっていた。

 ラービの場合はどうなっているのだろうか、そう考えていると――


「一通り見たけど、まあ別に見なくてもいいけど――貴方の魔力、世界中に溢れているわよ? 神樹。自覚ある?」


 と、突然の発言が飛んでくる。

 世界中に溢れている。これは大陸全域――というわけじゃないんだろうか。


「は? 《《大陸》》中に?」


「違う違う。《《世界》》中によ。……このままだと、貴方を文字通り神にするわね」


 ――は?

 ど、ど、どういうこと?


 内心慌てている俺と違って、ログさんは何故か嬉しそうだ。

《少し早いですが、王になるには十分の素質――!》などと譫(うわ)言(ごと)を呟いている。


「俺は王――神にはならない」


「何もしないと、なっちゃうわよ?」


「一体、どういうことだ。詳しく聞かせてくれ」


 そう聞くと、ラービは真面目な様子で話してくれる。


「うーん……あくまで推測でしかないんだけど――普通に魔力放出した神樹よりも、貴方って量が大きいのよね。そのせいで、全域が満ちているんだと思うわ」


 まじでか……。

 魔力感知でなんとなく、『なんか俺だけ魔力でかいな? ヴェールと戦ってたし、多くもなるか』と割り切っていたのに……。まさか放出量というものが普通より多かったとは。


「それに、精霊たちも騒いでいるの。火も、水も、土も、風も――〝主〟を見つけたって、言ってるの」


「あるじ……」


「貴方のことよ。神樹――いえ、リベル」


 俺の〝名〟だ。――鑑定で知ったか。

 精霊が、俺のことを主として認識している。しかも自然発生のが、だ。

 慕ってくれたり、褒めてくれたりするのは個人的には嬉しい。でも、忠誠を誓って仕えられるような器じゃないんだ。だからまだ眷属を作ってないし、精霊のことも愛娘と呼んでいるのだ。


「精霊たちには、主はいないと言ってくれないか? 俺は、神になどならな――」


 そう言いかけると、ラービが低い声で喋る。



「〝神〟にならないっていうなら、《《責任》》を持ちなさい。勿論、神になるっていうのも、責任を持ちなさい」


「は? 責任を? 俺が神にならないだけで?」


「そうよ。皆が貴方を神になることを望んでいるわ。でも、その地位を貴方は降りようとしている。望まれないことをした貴方がどうなろうと、皆はどうでもいいのよ」


「…………」


「神を、超常的な力を持つ存在としか思ってない? 違うわ、全然違うわ。力があるからこそ、それに縋(すが)る人たちの期待を応えて、裏切らなかったからこそ、〝神〟と呼ぶのよ。その点で言えば、私は精霊を裏切らないから〝神〟と言えるし、貴方もカルミリス王国を裏切ってないから、より期待されるのよ」


 ――ラービの考えを聞いて、俺の信条は揺らぎ始めている。

 ならないから、責任はない。そう考えていたのに。

 ならないからこそ、責任を持て――ということは……なんなのだ?


《地球世界で言うのなら、圧倒的に票を集め、期待されていた議員が突然、確約されていた地位を蹴った――ということでしょう》


 前から思っていたけど、なんで地球のことを知っているんだ――と考える暇無く、その例えでやっとラービの言うことを理解する。


「そうか、そういうことか……」


 そう声を漏らし、地面にあぐらをかいて座る。



「ラービ、一つ聞きたいことがある。俺が神にならなかったら、どうなるのだ」


 その問いに、ラービは考える素振りを見せ、しばらく経ってから答える。


「貴方に失望して、相手にされなくなる。それに、他の誰かが神になるわね」


「それで、どうなるのだ」


「間違いなく、今とは全く違った勢力構造にはなると思うわ。きっと、たくさんの血が流れるはずだけど――」


「分かった」


 ラービの推測を聞いて、俺は万能変化を解く。

 意識は本体に移され、魔力感知のみで周囲を認識するようになる。


「ラービ。俺は決めたぞ」


「――神になるの?」


「いや、神にはならない」


「それだと――」


「だが!」


 神は、神だけは、俺がなるのは荷が重い。

 でも、その一歩手前ならどうだろうか。

 神の使者である、救世主――


「創造神とやらが、この世界で最初の神なんだろう? なら、俺はその使者である救世主(メシア)となろうではないか!」


 この答えを聞いたラービは身体を震わせ、やがてその驚愕した顔は笑顔へと変わる。


「アッハハ! やっぱり、神樹って面白いわね――! いいわ、一人前になるまで私が面倒見て上げる。よろしくね、リベル」


「こちらこそだな、ラービ」


「じゃ、眷属でも作ろっか♪」


「――また別の機会で……」


「なんでさ! ほら、早く早く!!」


 ――そうして、このヴァルデリン森林に〝精霊女王〟たるラービが加わったのだった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!


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