41.おや?精霊ちゃんの様子が……?
――平和だ。
少なくとも、ヴェールと戦ってからは特に大きな出来事は起きていない。
愛娘たちはのんびり遊び回っているし、草木たちの怯えた声も全く聞こえていない。
『神樹様。お元気でしたかの?』
と、しわがれた声と葉っぱの揺らいだ音が聞こえる。
振り向くと――振り向けないけど――そこには、いつぞやの「爺の木」がいた。
まあ、元からいたけど、話しかけることなんて、何か起こったときくらいだったのだ。
『――あ、爺さん。そっちこそ元気?』
とりあえず、返事をしておく。
挨拶は基本、それだけは大事にしろ――という親からの言葉を、今も胸に刻んでいる。
『今回はですね、特に用事があるわけでもないのです』
『え、そうなの?』
念話だが、素っ頓狂な声を出してしまう。
この爺さんは、先も言った通り何かが起こったときしか話しかけてこないのだ。それなのに、この爺さんはあろうことか、特に用事もないフリーで話しかけてきたのだ。
『明日は噴火でもするのかなぁ……』
『失礼ですな。ワシだって、世間話くらいしますとも』
『すまんな』
さて――と爺さんが前置く。
『少し、悩みを聞いてほしいのですが……いいですかな?』
『いいぞ。全然、暇だったから』
快諾すると、爺さんは安堵の声を漏らし、話す。
『実はですな、最近根の調子が悪いのです』
『根?』
『養分の吸収が遅い――といいますか、木の幹に疲れがどっと乗っている感覚がするのですよ』
根の調子が悪い――か。
ただの老化なんじゃないか? この爺さんは結構生きてそうだし。
『不謹慎だが、寿命ってことはないか?』
失礼だが一応聞くと、爺さんからは否定の声が出る。
『いえ、その線はありませぬ。なんせ儂、まだ五百年しか生きてないのですから! あるとすれば、毒とかですかなぁ??』
――それは、木としては若いのか?
元人間だからよくわからないが、人間としてはまだ中年くらいだと見ていいのか……?
《そうですね。屋久杉や|三種類の松の木ブリッスルコーン・パイン》などの長命な種類でしたら、二千年から七千年まで生きる固体が多いみたいですよ》
ま、まじでか……。
七千年まで生きるなら、そりゃ中年――若者とも言えるな、この爺さんは。
《ただし! 貴方様ならば数千億、数十兆、数京年まで……いや! いくつもの世界の終焉まで生きることでしょう!》
あ、うん。そうだね……そうしとこうか。
『ヴァルデリン外に、なんか異変とかはなかったか?』
『特になかったかと想いますが……あ』
爺さんが、何か思い出した声を出す。
『そういえば、〝アデレテレ教〟の信者なるものが近くを通っていましたな』
『アデレテレ教――関係ないかもしれないが、一応覚えておこう』
そうして、爺さんと別れるのだった。
◆◆◆◆◆◆
爺さんが去って、再び静寂が場を支配しようとしていたときだった。
『――ッ! おい、大丈夫か』
突然、精霊――愛娘が苦しそうにうずくまる。
球体のようなものだから、うずくまるもクソもないのだが――とりあえず、苦しそうなのだ。
思わず、根で娘を包み込む。
魔力が拡散して、今にも消えそうな感覚だった。
『ログさん! これなにか分かるか!』
《――部分鑑定に成功しました。何かがこの精霊に――[会話不能]》
え、なんて?
とりあえず、ヤバい状況だということはよく分かった。
ログさんに治癒ができないか念じようとしたが――
「キャハハ! やっと現世に降り立てた!」
という、可憐な声によってその気が失せる。
見渡すと、小さな光がブンブンと飛び回っている。
いや、よく見ると――《《人型》》だった。
青みがかった白い短髪に、炎のように赤い瞳がこちらを覗く。
その薄橙色の身体には、体操服のように動きやすそうな黄色の衣服を纏っている。
薄く赤みがかった四枚二対の羽は、飛んでいないかのように静止しっぱなしだ。
『お、お前は……俺の知ってる娘じゃないな――!!』
「あ、君の魔力から生まれた子? ごめんね、自我がないっぽいから宿っちゃった」
『ふざけ――』
怒鳴ろうとしたが、宿った者の自己紹介ですぐに口を閉じる。
「私は精霊族の女王! 人呼んで、義理堅い麗女〝ラービ〟よ! よろしく♪」
『え、え……え?』
精霊の女王、女王?
この女性が、娘の種族の原点?
意味不明――という顔をしながら、ドヤ顔のラービを見つめるしかなかったのだった。
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