プロローグ:どこにいるの?
神樹は、誰のものでもない。
けれど、私の祈りを一番最初に聞いてくれた。
だから――思わずにはいられない。
どこにいるの?
「――朝か」
重いまぶたを開け、ベットから起きる。
「ふわあぁ……」
大きな欠伸をしながら、鏡の前へ歩く。
「――ふーんふふーん、ふーふ~~ん♪」
バシャッバシャッと顔を洗って、タオルで拭きながらボサボサな赤髪を櫛でとかす。
「あ、隈……とらないと」
そう思ったが、今夜にしておこう。今日は大事なことがあるのだ。
ドアを勢いよく開ける。
目の前には、大きな王城。
活気づいた人々と商店。
ここはカルミリス王国――首都リシャール。
大陸中で、一番幸福度が高い街だった。
「――おい、アイビーが出たぞ」
「うわ、ほんとだ……強いのにな、性格がな……」
「シッ! 聞かれでもしたらどうするんだ」
――こういう内緒話は、聞こえてても問題ない。日常茶飯事よ。
私が来る毎回、この雰囲気になる。
どうせ私は、省かれ者扱いなのだから。
「はい! これ、神樹様の護符! 最古の神樹様を表した文様もありますよ!」
――違う。それは違うの。
それは信仰じゃない。
ただ文様を刻んだだけでは、神樹の信仰は表現できないわ。
まあいいわ、そんな護符よりも、私は欲しい情報があるの。
スタスタと、目的地である《《王城》》へ進む。
「ねぇ、門番さん。通してほしいのだけど」
「――身分証を見せて下さい」
「えっと……あった、はい、どうぞ」
身分証を渡すと、門番はそれをまじまじと見つめ、大慌てで返される。
「お、お通りください! 毎度、ここを利用してくださり、あ、ありがとうございます!」
◇◇◇◇◇◇
階段を登り、部屋の中でも一際大きい焦げ茶の扉を開ける。
ギギギィィィ―――
「はいはーい……って、君か」
「久しぶりねゲン」
「アイビーか……これはめんど――交渉し甲斐のあるお客が来たものだ」
「さっき言いかけたことは置いておいて――」
と、早速本題に移る。
私が、全連《《直属》》の〝情報屋〟を訪れた理由――
「まさか、Aランク冒険者のアイビーさんが、僕のところへ来るとはね……。それほど知りたいことなんだね。聞いてあげるよ」
ゲンが、目を細めて言う。
「知りたいの、私を助けた存在――〝神樹〟について。それもごく最近に生まれたものから調べてほしいわ」
そう告げると、ゲンは目を見開いて叫ぶ。
「馬鹿な! 神樹がもう生まれたのか!?」
「私が助けられたのよ? 当たり前じゃない」
「いやいやいや……君が助けられた? ちょっと怪我をして、CかBランクくらいの魔物と戦ってたのに?」
「あのとき、臨時パーティを組んでいたの」
ゲンほどの狡猾な人は、事実を伝えるしかやらせる方法はない。
「……続けて」
やっぱりだ。ゲンの聞く姿勢と、空気が変わった。
ひとまず安堵して、続ける。
――でも、言っていいの? あんな俗物に、あの方のことを。
いえ、知るためには、犠牲がつきものよアイビー――そう言い聞かせながら、私は言う。
「Dランクくらいの三人組だったわ、その人達を庇って、私はしばらく武器を持てなかったの。ここまでは分かるね?」
「――まあまあ、うん。しばらく武器を持てないっていう所は気になるがね」
「その時に、私ですら手こずるAランク程の強さをした魔物が出たの。もちろんDランクの冒険者がどうにかできるはず無く――このまま殺されるのかと思ったわ。私、魔法使えないし」
でも、君は生き残った――とでも言わんばかりの目で、ゲンは私を見つめる。
ただ見ているだけだが、なんとなく分かる。ゲンは、私が生き残った理由はまだ知らない。
いつでも聞かせられるように、一瞬間を置いて言う。
「――けどね、そこで私は見たの。地面から生えた根を。自由自在に動く木を! あれは間違いなく、神樹だわ! あの方がいなかったら、あの冒険者もろとも私も死んでいたわ!」
次第に、感情がヒートアップしていく。
ああ、抑えられない!
神樹の気持ちを! どこにいるのか! 速く、早く、知りたいの!!
「だから、早く!! 調べて頂戴!!!!」
長い赤髪をかきあげて叫ぶ。
……おっと、いけない。
また感情が昂ってしまった。
「……ほ、本当に、神樹なのか? 幻覚とか、偽物の可能性は……?」
「ないわ!」
断言する。
「私が最初なのよ? 最初に救われたのが、私なの。だから《《間違いない》》わ!!」
「あ、ああ。わ、分かったよ……」
ゲンがそう言って、渋々立ち上がる。
「やった! それじゃ、情報収集が終わったら連絡ちょうだいね!」
そうして、私は自宅に戻る――
◇◇◇◇◇◇
「あーあ。神樹様、どこにいるのかなぁ?」
そう呟きながらベットに横たわる。
早く会いたいなぁ。
話したいなぁ。
あの根を、もう一度見たいなぁ。
触れたいなぁ。
独り占めしたいなぁ……♡
「好きなの、神樹様。信仰してるの、私が初めて、信仰したの! そして早く――私と会いましょう、神樹様♪ だから、私は神樹様のモノ♡ 神樹様は、私のモノ♡」
ああ、待ち遠しい。早く会いたい。
最近は、神樹様の賛歌を歌っていたなぁ。
あの曲は駄目よ。神樹様の神秘さと神々しさを表せてない!
うるさ過ぎて、教会に突撃することもあったわね……。
やっぱり突撃しようかしら? ……いえ、抑えなさい。
そう必死に止めつつ、私は自作の、《《あの》》神樹様への賛歌を歌う。
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