血濡れたヴェールを貴下の頭に 其の四
ああ、失敗した――とヴェールは思った。
一度、幻覚魔法が打ち消されたのだから、そこからすぐに物量戦を始めてればよかった、と。
(クソ……アラベルが相殺したから、こいつには耐性がないと思っていたのに――!)
内心で毒づく。
実は、ヴェールの推測通りに、リベルは『精神攻撃耐性』など所持していないのだ。
だから、ヴェールの〝憎悪で構成された領域〟を防ぐ術などないはずだった。
だが、それをリベルは気合で乗り越えた。
という事実に、ヴェールは動揺を隠せないでいた。
――鎌と剣の鍔迫り合い。
両者は一歩も引かずに、前へ前へと押し込んでいく。
力は、全くの互角。
本来ならば、勝負はつかないはずだ。
ヴェールの動揺がなかったら。
「考え事かぁ!? カマキリ野郎!」
一瞬の力の緩みを狙われ、ヴェールは鎌を打ち上げられる。
両腕を天に伸ばした態勢となり、胴体ががら空きとなる。
(まずい――! 追撃を、許してしまう!!)
「〝天割〟ゥ! 横バージョン!」
リベルが水平にドラウヴル・ファングを振り、ヴェールの脇腹を斬ろうとする。
鎧と剣。
防御と攻撃の衝突。
より速く、より鋭かったのなら、剣が勝つ。
より硬く、より重かったのなら、鎧が勝つ。
火花を散らし、鉄同士がぶつかった高い音が鳴り響く。
「ハァァァ―――!!」
「ヌオオォォォ――!」
ここまでで、〇・〇〇二秒の出来事。
ヴェールの両腕はまだ、衝撃を逃がせていない。
だがここで運が、ヴェールにやってくる。
カァーーーン――ッ!!
と高らかな音が鳴り、剣が弾かれる。
「……チッ」
リベルが距離を取り、剣を構え直す。
「あ、危なかった――」
ヴェールはその場で、両腕をグルグルと肩から回す。
「さて、肉弾戦と行こうか」
ヴェールが告げる。
リベルも、その言葉を承諾したかのように、剣を光の粒子に変化――召喚解除する。
木と、外骨格の対決。
未だに類を見ない、史上初のミラクルマッチが始まる――
◆◆◆◆◆◆
ヴェールと肉弾戦。
剣も通じにくくなってたし、こっちにとっても都合がいい。
そう思って、無言で承諾したのだが――
「うお!?」
ヴェールの放つ拳の速度が、速すぎる。
いや、俺が遅すぎるのかもしれない。
俺がパンチを避け、カウンターを実行しても、それをいとも簡単に受け止められ、逆にカウンターをお見舞いされてしまうのだ。
キックを繰り出したら、ヴェールが体を大きくのけぞらせてギリギリで避け、そこから後頭部に逆立ち蹴りが直撃する始末であった。
「い……たくはないけど。これじゃダメージが蓄積する一方だ……」
《案を思いつきました!! 実行しますか?》
――案? いいじゃないか。ちょうど俺も、なにか良い作戦がないかと考えていたところだ。
考えても、あんまり出てこなかったので、ここはログさんを信じることにする。
《では、内容をお伝えします――――》
そうして作戦内容を聞く。
《――という手順です! 頑張ってください!》
ログさんの作戦は――
「――はぁ!? 正気かよ!」
と、現実で叫んでしまいそうな作戦だった。
「――なんだ?」
これには、ヴェールも突然のことで目を丸くしている。
おいおい、ホントにこれでいいのか? ログさん!
《はい! これが最適だと判断しました。さあさあ! 頑張ってください!》
ログさんの陽気さと、戦闘の激しさの差で風邪を引きそうになりながらも、俺は作戦を実行する――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
作戦内容は要約すると、こうだ。
一、力を拳に溜めまくる。
ニ、限界まで溜めた後、ヴェールの核目掛けてパンチする。
三、力を解放し、大爆発を起こす。
これのどこが作戦なのだろうか……。
これが、脳筋戦法なのだろうと本気で感じた。
だが、これが最適だと言うのなら、実行する他あるまい。
――拳と足を繰り出す速度は、徐々に速くなっていく。
地面が削れ、空が裂け、魔力が乱れる。
その中で、魔力を拳の内に蓄積させる。
ログさんが言うには、限界まで溜めるには十五分ほどかかるらしい。
死ぬほど長いが、根気強く耐えるしかないと言われた。
一旦距離を取り、ヴェールと対話を試してみる。一秒でも時間を稼ぐため。
「……ハァ、ハァ……お前、異常に強いな」
「フゥ……フゥ……お前もな。リベル」
ヴェールは俺の憎悪に染まっているはずなのに、何故かその顔は爽やかそうだ。――蟲だけど。
「――なんか、爽快な顔だが、何かいいことでもあったのか?」
「――ム? そんな顔をしていたか?」
どうやら、本人は自覚なしのようだ。
「はあ、何か時間稼ぎでもしているのか? 露骨に会話をさせようとしている、既ににバレているぞ」
「うぐっ」
「行くぞ」
会話が打ち切られると、ヴェールが一瞬で距離を詰め、飛び回し蹴りを放つ。
それをギリギリで避け、アッパーをヴェールにモロに当てる。
「グフゥ!」
顎に直撃させたが、ヴェールは怯まずに鎌を槍のように伸ばす。
「〝悪意に塗れた攻撃〟――ッ!!」
避けようと足を動かそうとするが、動かない。
黒い何かが、俺の足に絡みついている。
「無属性、魔法――?」
すぐに解析をするが、それによって回避が難しくなった。
攻撃が、俺の左肩を貫く。
「俺の勝ちだ! リベル!」
力が完全蓄積するまで、あと五分――
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