血濡れたヴェールを貴下の頭に 其の一
実は、俺は剣術ができる。
叔父さんの婿入り先が元武将の名家だったもんで、そこから色々と教えてもらってた。
叔父さんが言うには、「ゲームの育成みたいで楽しかった」とかなんとかほざいてたが、やればやるほど成長するという点では間違いないのだろう。
今では、大剣豪も涙目の実力となっている。と言われた。
「剣道で世界一取れるだろ」とかも言われたが、世の中そんなに甘くないと言い返してやりたいものであった。
そんなことも、今ではいい思い出だった。
………
……
…
静かに、魔剣カラドヴォルグを構える。
「俺しか眼中にないんだろ? なら、今すぐそのテリトリー化を解いてくれ」
穏やかに、しかし威圧を混ぜて、ヴェールを諭す。
せめてこれ以上、被害を出さないための考えだ。
敵も、味方も。自域に、生きて帰れるように。
「断る。これを解けば、貴様はオレと戦わないであろう」
「――そこまでお見通しだったんなら、普通にかかってくれば良かったのにな!」
大きく剣を振りかぶる。
痛み無く、一瞬で頭をかち割るために。
「すぐに終わらせてやるよ――〝天割〟――ッ!」
〝天割〟は、一刀両断するために編み出された名家の技だ。
敵は勿論。水、地面、空気中の原子すらも斬る――というのが理想だったらしい。
この世界で、俺が初めて実現した技だった。
――手応えはあった。
どんな岩よりも、ココンよりも、硬かった。
でも、ちゃんと〝斬った〟と思った。
だが、その実態は違うようだった。
「どうした。よそ見でもしていたのか?」
低い声が俺の耳を通り抜け、腹に衝撃が走る。
「――ッ!?」
目の前に、地面が見える。
俺が倒れたのだ。
「どういうことだ……!? 確実に斬ったはず……!」
立ち上がろうとしても、立てない。
力が抜けたかのように、途中で地に伏せてしまう。
ふと自分の体を見ると――腰から先が、なかった。
「――ッ! 斬られたのか、いつの間に!?」
断面から見るに、〝鎌持ち〟――ヴェールに斬られたのだ。
「こんなことにも気付けないとは……愚かだな。リベル」
冷たく、見下したように喋る。
ヴェールがカラドヴォルグを拾い、まじまじと見つめる。
「ふーむ、中々良い性能をした業物だが……思ったより、オレを倒せるような性能はしておらんな。……少し残念だ」
そう呆れた声を出し、俺とは真反対の方向へ投げ捨てる。
「クソ……! すぐに再生して――」
やる――と言いかけた時、違和感に気づく。
「……?」
いつまでも、立ち上がれない。
再生が遅いから?
いや、俺は〝リベル〟と名が定義されている。定義された今では、『肉体顕現』という『高速再生』を超えたスキルを獲得している。再生が、遅いはずがない。
――では何故、一向に再生が始まらないのか?
「どういうことだ?」
「何故、オレを斬れなかったのかと思ったか?」
突然、ヴェールが問う。
「何故、再生が始まらないのかと思ったか? 何故、何故、何故、何故――そう思ったはずだ」
「……何が言いたい!」
「何故魔法が存在するのか。何故空があるのか。何故スキルがあるのか! 何故我らは生きているのか!!」
「だから! 何が言いたいと聞いているんだぞ! ヴェール!」
苛立ちのままに言い放つと、ヴェールは急に落ち着いて質問する。
「神樹リベル。お前は、全てを――何をどう認識しているのだ?」
――認識。
――なにを?
――全てを。
――なにで認識する?
――どれはどれだ?
――あれはあれか?
――これはこれさ。
――それはそれだ。
――どういうことだ?
――そういうこと?
――こういうこと?
――ああいうことだ。
草とは。
葉とは。
茎とは。
根とは。
花とは。
果実とは、
植物とは。
足とは。
腕とは。
腹とは。
胸とは。
首とは。
頭とは。
体毛とは。
動物とは。
肉とは。
油とは。
野菜とは。
飲食物とは。
魚とは。
豚とは。
牛とは。
馬とは。
猿とは。
鳥とは。
竜とは。
人とは。
知能とは。
道具とは。
武器とは。
魔物とは。
魔力とは。
魔法とは。
宝物とは。
組織とは。
スキルとは。
理念とは。
空とは。
地とは。
海とは。
星とは。
宇宙とは。
世界とは。
神とは。
敵とは。
味方とは――
――――この世に存在する全ては、一体何なのだ…………??
「…………」
答えられないでいると、蟲――アリとカマキリが混ざった『ヴェール』が、口が引き裂けるほどの邪悪な笑みを浮かべて言う。
「お前は、既にオレの術中にいる。これから、オレの憎しみをお前にぶつける! 憎悪で始まり、憎悪で終わる戴冠式だ!」
「何が、何なのだ……お前も、俺も――」
「何、安心しな。これから殺してやるさ。お前の魂も、肉体も、その理念もな」
そう一拍置き、告げる。
「砕いてやるさ。〝憎悪で構成されし領域〟の始まりだ――」
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