3.まだ〝世界〟はその名を知らない
転生して、早一週間が過ぎた。
その五日くらい、ログさんがせっせと何かしらのデータ照合をしていた。未だに、お供え物の正体が何なのかは解明していない。
え? 俺は何をやっているのかって?
俺は草木と世間話をしたり、枝を動かす練習をしまくっているだけさ!
それ以外、何もやっていない。
だがしかし、練習している内に気が付いたんだ。
――あれ? これ……森の外側の植物と『伝言ゲーム』して、外の情報を集められるんじゃね? って。
これこそ、俺の知能指数が高いと言われる所以だ、という作戦ができたのだよ!!
そうして勢いのままに、俺は伝言ゲームを実行してみた。
………
……
…
さてさて、電源――じゃなかった、伝言ゲームの結果が出た。
早速、まとめてみようかね――
一、この森は『ヴァルデリン森林』と言って、カルミリス王国っていう国の領土内らしい。人間達にとっては、魔物とかの危険は他とは格段に少ないそう。
二、カルミリス王国は現在、魔物が異常に強いことに悩まされている。〝迷宮〟とかいう魔物発生スポットの情報も出てきたので、それと関係してるのかも。後、カルミリス王国に限らず、別の国にも同じ『魔物』に悩まされているらしい。
三、この俺――ただの〝木〟が生まれたことで、周り……というかカルミリス王国が騒いでるっぽい。
ざっと、手に入れた情報はこんなものだ。
ゲットした情報は後で処理するとして……精人族の悍ましいお供え物が供えられてから、ずっと正体を暴くのをログさんに任せっぱなしなんだけど……もう終わったのかな?
胸中で独りごちると、丁度良いタイミングでログさんが話しかけてくれた。
《照合を終えた結果、この二つはかなり危険度が高い物であることが判明しました》
『あ、マジ? 取り扱い注意的な?』
《詳細を聞きますか?》
まあ、情報を聞くだけなら大丈夫だろ。爆発する訳でもあるまいし……。
『あーうん。じゃあ、聞いておこっかな――!?』
同時に、背筋が凍る感覚がする。木で何ていうかわからないけど。
軽く受け答えていたが、間違っていたかも――と後悔する暇なく、ログさんが情報を開示する。
眼前に文字が表示され、ログさんが読み上げてくれる。
《では、申し上げます。……精人族から供えられた漆黒に染まった棒と正体不明の赤色の宝石は、高位武器『伸縮自在の魔剣』と、『真紅の金剛石』であることが判明しました》
『……は?』
めちゃくちゃ厨二病な名前が出てきたんだが……それが、お供え物の名前なのか?
こんな黒い棒が、『魔剣』? いやいや、原型無いだろ。赤い宝石の方がちゃんとしてるわ。
『えっと、そのカラドヴォルグ? ――てのと、レッドダイヤモンズ? を解説して欲しい。名前言われただけでも全然分からん』
《了解致しました。まず伸縮自在の魔剣ですが、武器の中でも〝魔剣〟と呼ばれる分類に属しておりまして、『どこまでも無制限に伸びる』という特性を持っています。間違いないことは、これを持っているだけでも国家間との戦争が生まれるの一点と、そんな危険物をたかがエルフが所持している《《はずがない》》ということですね》
衝撃的なことを聞いた気がする。
どこまでも、伸びる……? 無制限に? インフィニティに?
今、頑張って動かそうとしてる枝と負けた気がする……元々比較対象になってないけど。
それよりも、なんでエルフが持ってるの? 持ってるだけでも、国同士の争いに発展するレベルの武器でしょ?
な、なんで………………?
『――ハッ!!』
いかんいかん、精神を強く持て。答えのない問いに熟考してると、放心してしまうぞ。
というよりも、人のそばにいきなりヤバい置き土産持ってくるんじゃねえよ。
あと、急に魔剣とか言われても、ねえ……? 反応に困るよね。
赤い宝石の方がまだ気を緩くして聞けそうだから、その情報と合わせて考えるかな……。
『まあ、魔剣の情報は一旦置いておいて……宝石の方を教えてくれ』
《――言いたく、ありません》
――何故? ホワイ?
ここでログさんが情報開示を渋るだと……?
なんか、余計に気になるなぁ……。
『まあまあログさん。そんなこと言わずに、ね? 教えて下さいよぉ~』
自分でも吐くほどの猫撫で声で、ログさんにねだる。
ログさんが何も言わない感じから、かなり嫌そうな雰囲気を出している。
《いいえ、これを申す必要は、全く! ありません》
『全くを強調したな……。てか、なんでさ? そんなヤバいもんなら、いっそ捨てちゃう?』
《――! 捨ては……しませんが……ッ!》
おいおい、まだここの日は浅いが、これほど躊躇しているログさんは見たことがないぞ?
いや、五日は口利いてなかったから、実質二日で、めちゃくちゃ日が浅い。だけど、ただ事ではなさそうなのは分かる。
そんなに恐ろしいブツなら、俺も、自然と聞く気が引けるってものだ。
『……まあ、そこまで嫌なら仕方がない。今のところは聞いておかないでおくよ。強要はしないタチなんでね』
《……ありがとう、ございます》
喜色の混ざった声で、ログさんが感謝を告げる。
急な『ありがとう』だったから、思わず返答するのが遅れた。
『え、あ、どういたしまして……』
……それにしても、『ありがとう』などと言われたのはいつぶりだろうか。かなり久しぶりなのは分かるが、正確な時間が分からないな。
まあ、企業に勤めてた頃は謝罪ばっかりだったしな。だから感謝の言葉自体を聞くのも久しぶりなわけだ。
学校で習っていた『挨拶、感謝、謝罪。この三つだけはちゃんとしていこう』的な教えは本当だったんだな。
俺はそれが大事なのだと再確認し、人としての必須事項を厳守していこうと思ったのだった。
あと、危険物を余裕綽々と持っているエルフ達にも、畏怖の念が湧いて出てきたのだった。
◆◆◆◆◆◆
そういえば、ステータスとか見れるのかな?
異世界転生したのなら、こういうシステム的なものがあってもおかしくないし。
まあログさんがいるから、『ステータス・オープン』的なのもできるはずだ。
『ログさーん。自分のステータスとか見れる? 鑑定とかで』
俺が独り言のように聞いてみると、《できますよ》と返事が来た。
《掛け声とかは無くても良いので、自分の内側を見るイメージをすれば、ステータスを見ることができます》
『あ、ステータス・オープンとかしなくていいんだ……』
掛け声、どうでも良いんだ――と少しガッカリしたのは内緒の話である。
『まあいいや。それじゃあログさん、お願いしまーす』
俺が言葉を言い切ると同時に、目の前にウィンドウみたいなのが表示される。
そこに並んでいる文字列は、まさしくステータス画面と呼ぶような構成であった。
○名前:なし
○種族:神樹……世界樹(幼体)
○称号:神樹の芽生え
○加護:創造神の加護
○魔法:
・『樹木魔法』
・『大地魔法』
・『精霊魔法』
○技術:なし
○耐性:
・痛覚無効
・自然無効
・地属性無効
・水属性耐性
○能力:
・鑑定
・念話
・再生
・枝伸縮
・魔力感知
・森羅共鳴
・配下創造
……把握しきれるかな。
項目とか色々突っ込みたいが、まず一番最初に思ったのがそれであった。
ゆっくりと、ステータス画面を見ていく。
上から順に、一文字一文字を理解しつつ、目線を下に落としていく。
だが、種族――その項目にて、俺の視線は止まった。
衝撃的なことに、気づいたからだ。
『……神樹? ……世界樹……?』
種族名を見て、ゾクッとした。
ユグドラシル――名前の通り、世界樹。ドデカいトネリコの木で、九つの世界を根に持つ。神樹と形容するにふさわしい、とんでもなくビッグな存在である。
『御神木……なのか。……意味が分からんな』
《肯定。まだ幼体で小さくはありますが、最終的には森と大地を守る神樹に慣れます!》
『いやいやいや! ただの木だろ!? ただの木!! 大事なのは、THEじゃなくて、Aだというところ――理由は、俺みたいなやつはどこにでもいるから――じゃなくて! 木如きで何が守れるっていうんだよ!』
《大丈夫です。まだ推測の域ですが、能力で様々なことができますので》
俺の勢いに出た言葉を、ログさんは慌てずにお婆ちゃんが受け流すように柔らかく返答する。
マジかよ。俺、意外とブラックなところに転生しちゃったのかも、と少し疑惑を覚えた。
『ハアァ……まだ、小さいって言っても、普通の木と同じ大きさだぜ……?』
ここから更に大きくなるって、一体どこまで大きくなるっていうんだよ。下手すると単位がキロメートルになるんじゃないのか?
そんな事を考えながら、俺は自分が〝神樹〟だという事実に、ちょこっと目を逸らした。
――この時、俺はまだ知らなかった。
世界樹が……俺という存在が、世界を巻き込む事変を引き起こすことを。
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