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2.なにこれ?

 昨日、枝を動かす練習を始めた。……暴発して悲惨なことにはなったけれど。

 練習を始めたのは良い。なんたって、何事も練習しなければ上達はしないからな。

 だけども――動かし方が分からないのは、如何(いかが)なものだろうか。


 マジで、やり方が分からん。

 感覚を覚えれない。

 力加減とか間違えたら、さっきみたいに暴走しちゃうし……。


 お手本とかない時点で、かなり重大な問題だ。


 それに、考えてもみろ。

 全身が木で、手足の感覚はおろか、関節がどこかも――いや、そもそも関節が無いのだろう。

 まあつまり、関節がないから軟体生物のような動かし方を求められているのだ。


 いや、無理だろ。

 言うなれば、利き手を使わずに寒天を箸で掴むようなもの。

 そんな状態でどう動かせと? もう一度言おう、無理だろ。


『成果なし……だな、ビックリするほど動かない……』


『おや、枝を動かすことができなかったのですかね?』


 成果なしで落ち込んでると、しわがれた爺さんの声が、俺の脳内に響く。

 声のした方に視線をやると、そこにはただの〝木〟があった。

 その木が、俺に話しかけた声の主である。


 ……先に言っておくと、これはスキル『森羅共鳴』による植物対話だ。

 スキルについては、練習中にログさんから『森羅共鳴』のスキルだけ教えられた。それ以外は全く教えられてないから、他に何を保有しているかは分からないけど。

 ログさんの情報だと『植物対話』っていう、文字通り植物とコミュニケーションを取れて、草木や花はもちろん、頑張れば植物系モンスターとも話せるらしい。


 こりゃ凄い! 動物……じゃなくて、植物好きにはたまらないな! あと、便利そう。

 そんな理由で、今は常時発動中にしてるんだけど……。


『ああ、そうだな。ピクリとも動かないな』


『そうですか。貴方様ならば、この程度はお茶の子さいさいだと思っておりましたが……依(い)然(ぜん)として、我々と同じ程度の存在ということですな』


 少し――いや、かなりうざったい。

 さっきみたいな、煽ったような言い方をしてくるのだ。


 まあ、これが初めてだという訳でもない。何度か会話を交わしたことがあるから、その言い方も理由がある。

 聞いた話だと、草花なんて常日頃から動物に踏まれ、食われてるわけだし。木だとしても伐採とか子供に枝折られたりで鬱(うっ)憤(ぷん)がよく溜まるらしいし。

 だから、こんな形で発散しないと植物なんかやってられないんだろう。なのでああいう言い方は必然なのであって、いたずらに俺を怒らせようとしているつもりじゃないんだと思いたい。


 胸の奥に溜まる苛立ちを抑え、爺さんに話しかける。


『それで、爺さんは何しに?』


 この爺さんが話しかけてくるのは、必ず何かしらあったときだ。

 前回は木が口論になったから、前々回はリスがずっと花に乗っているとかのしょうもない問題だった。今回もどうせ、そんなしょうもない問題で来たのだろう。


『ああそうでした、我々と対話できる森の住人、精人族(エルフ)がお供え物を持ってきているそうです。何やらエルフは長年の風習で、地元の森に敬意の念を表してお供え物をするそうで――』


 今回も、大事ではなさそうだ。


『俺宛に? じゃあ、持ってきてくれるか?』


『勿論でございます』


 爺さんが応答して、近くの木達に何やら指示を出している。

 お供え物を持って来させるためだろう。


 それにしても、お供え物だと? 変なもの押し付けられてないと良いんだけど……。

 ちょっと嫌な予感を感じているが、そんなもの間違いだと直感を無視するのだった。




 ここにいる木達は、物を運ぶ方法を持っている。

 自分で動かすことはできないので、『動物に頼んで運んでもらう』というのが普通である。無論お供え物も例外ではなく、爺さんは森にいるリスやクマに頼んで、お供え物を持ってこさせているのだ。


《『鑑定』スキル、ありますよ》


 ……『鑑定』スキルまで持っているのかよ!?

 まさか、異世界ファンタジーでの情報収集特化スキルの金字塔まであるとは……ログさん、恐ろしい子だわ。

 それはさておき、動物達の種族も気になるっちゃ気になることだし、鑑定してみちゃうか。


『鑑ッ……定ッ!!』と心の中で叫び、運んでくれている動物達を鑑定する。

 さあ、その気になる鑑定結果は――!




[飛翔栗鼠(フライリス)]


[巨大な大熊《ジャイアントグリズリー》]


[猛進猪豚(ターボボア)]


[筋肉鼯鼠(マッチョムササビ)]




 ――という感じの種族表記だった。


 いやあ、うん。

 種族表記に多様性? が感じられて良いなとは思った。

 鑑定結果で図鑑とか作ってみても面白そうだなとも思った。

 図鑑作ると言っても、動物以外のやつも作りたいなとも思った。


 ……本音は……。

 動物にも表記あるのは面倒くさくね?

 大熊がジャイアント? リスが飛行(フライ)? どゆこと?

 マッチョムササビ、お前が一番おかしい。なんなんだよ、筋肉の重さで飛べへんやろがい。

 ――というところだ。



 声を大にして叫びたい気持ちを必死に抑え、鑑定結果を脳内メモする。

 その間で、動物達がお供え物を地面に置いてくれて、そそくさと別の場所に行ってしまう。

 ありがとうくらいのお礼は言いたかったな――と思いつつ、動物達を見送る。


 ……いつの間にか、爺さんまでいねえ。

 まあ爺さんがいてもいなくても問題はナッシングなので、俺は置かれたお供え物を確認してみる。

 包装とかはしないで、そのまま直に置かれている。なので見た目がどんなものなのかは、すぐに分かった。

 そして、その上で言及しよう。



 ――これ、本当にお供え物?


『こ、コレが……お供え物、ですか……』


 ここには誰もいないのに、独り言でも敬語になってしまうレベルである。

 お供え物だから、食べ物かゴミかなーって思っていたのだが、このお供え物はその範疇を大きく逸脱している。


 供えられたものをなんと言うべきか、最適な言葉が見つからない。

 これら――『ドス黒い棒』と『謎に赤い宝石』が、本当にお供え物なのが信じられなかった。


『…………なにこれ?』


 それしか言えない。というか、それ以外に言うべきことある?

 目の前にあるのは、『ドス黒い棒』と『謎に赤い宝石』の二つ。


 黒棒は……なんだろう、習字とかで使う固形の墨にも見える。でも棒なのか? と言われるとうーん……ってなるし、固形の墨にしては大き過ぎるし。

 それに、呪具っぽい感じを出してる気がしなくもない。

 赤い宝石らしきものも、赤いっていうか、なんか、質感――ツヤ? が血っぽいんだよな。滲んでいるのか、外側で固まっているのか。


『見た目に突っ込みどころ満載だが、不吉だっていうことだけは分かるな……』


《排泄物ではありませんよ》


 誰もそんなこと言ってねぇよ!? 俺の発言ガン無視して言ってない!?

 ……ていうか、これ本当になんなの? 呪われたりしてないよな?


 疑ってお供え物を見続けても、何かが起こるわけでもあるまい。

 情報処理が大変だから、見た目からゆっくりと整理アンド理解をしていこう。


 ………

 ……

 …



 まずは、ドス黒い棒――いや、辛(かろ)うじてそう見える奴だ。

 木の棒にも見えないこともないし、見た感じ墨っぽい質感だ。そして、なんか漆黒のモヤモヤが棒の周囲を包んでいる。指一本触れるだけでも解呪できない呪いでも掛かりそうな物体だ。


 次に、謎の赤い宝石。

 一見するとルビーのように赤く綺麗な宝石なんだけども……所々不透明な部分がある。多分、元々は水晶かクリスタルかなんかだと思う。そういう不透明な宝石が血を被ったのかなんか知らんが、赤色が剥がれている時点で、急に禍々しく見えてしまう。


 見た目は二つとも違うが、両方とも近寄り難いオーラを放っていた。


 外見を整理し終わった。視覚情報は完全に理解した。うん、それだけ。

 ここから何ができるっていうんだい……。

 ――よし、情報に困った時は『鑑定』スキルだ。


 心の手をお供え物に向け、唱える。


『鑑定!』






 ――[鑑定結果:失敗]






 はぁ? まじで?

 練習中の暇潰しでやっても、何かをしている最中でやっても、色んな動植物やそのへんの石ころとかにもやっても、必ず何かしらの情報は分かったのに……!

 まさか、結果が『失敗』だとは……!!


『どうすればいいんだ、鑑定ですら何も得られないとは……』


 何か案はあるのか? 『鑑定』とかのスキルを使わずに、このお供え物達の情報を得ることができる方法――


『――あ、ログさんいるじゃん!』


 ログさんも検索能力があるんじゃないか? もしなかったとしても、今は危機的状況じゃないから特に損もないし。


《――どうかしましたか?》


『ログさん! このお供え物二つ、正体を暴いてくれ!!』


 俺こういうのすっげぇモヤモヤする性質(タチ)なんだ。

 もし無理だったら、俺がモヤモヤして練習どころじゃないけど。


《了解致しました。試してみます――》


『頼む!』


 そうして、ログさんが《ナウ・ローディング》とか言って挑戦してくれる。

 俺はログさんが頑張ってくれている間に、枝を動かす練習を再開するかね。やっと、少しは動くようになったんだ。

 ほんのピクリだけど、進歩したことには変わりない。後は自由自在にするだけであって――


 練習に取り掛かろうとしたところで、ログさんからの通知が入った。


《報告(レポート)。これらは通常の魔力構造をしておりません。高位の物体と断定します。なお、この物体は〝神樹〟にのみ反応しています。照合と開始します》


 え? そんなヤバいものなの? ていうか、〝神樹〟って何……?

 でも、そんな状況でもできることは『枝を動かす練習』のみ……。


 今日から一週間、俺が見た物の七、八割は木の枝であった。

 本当に、誰かコツ教えてください。動きはするんですが、なんか変な方向行っちゃうんです。ほら、こうやって慎重に動かしても――



 ――ボンッ!!!



 ちなみに、枝が暴発して明後日の方向に行っちゃうことで、森の動物たちがビビりにビビりまくってるのは知る由(よし)もない話であった。

 ……ごめんね?

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」

そう思っていただけたら、感想や評価をいただけると嬉しいです!


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皆さまの応援が、次のお話を書く力になります。

これからもよろしくお願いいたします!

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