侵略阻止計画 其の六
〝鎌持ち〟が飛翔する。
目的は、『相棒』との合流。
神樹と戦っていた場所から、約三時間かかる距離だ。
――普通ならばそれくらい掛かるのだが、〝鎌持ち〟はそれをたった四十分で辿り着ける。
それほど、〝鎌持ち〟は速かった。
(相棒に、伝えなけレバ――ッ!)
〝鎌持ち〟は、これ以上ないほど焦っていた。
なにせ、相手が存在定義を始めたのだから。
〝存在定義〟を簡単に言えば、存在の形が決まることである。
不定形な水が、容器に注がれてその形となるように。
自身に〝名〟を与えるという形式で、自身の存在を決めるのだ。
(ヤツは、〝リベル〟と名付けタ――恐ラく、〝名〟を即興で付けたのダロウ)
――〝鎌持ち〟は、長生きだ。下手すると世界の始まりから、終わりまで生きている。
だからこそ、その蓄え続けた知識が必須なのだ。
〝神樹〟の存在定義――それがどれほど恐ろしいかは、鎌持ち――[観測対象外]は熟知している。
はるか過去、一度目撃して、敗北してから、[観測対象外]は知った。
神樹は、手出ししてはならぬ。
定義前の神樹でも手強かったのだ、定義されたら確実に勝機がなくなる。
そう、[観測対象外]は思い知らされたのだ。
だからこそ、絶対に止めなければ。神樹を破壊する。例え、私たちが犠牲となっても――そう覚悟し、[観測対象外]は飛ぶ。
◇◇◇◇◇◇
剣戟が鳴り響く。いや、正確には〝剣〟と〝甲殻〟が衝突し鳴る音だ。
「なるほどのう……ダーガスくんが瞬殺されるほどの強さを、持っとるわけじゃ」
「バルド爺。あいつすっげぇ硬いんだけど」
コソコソと、バルドとアラベルが相談する。
「ドウシタ? もう終わりカ?」
「たわけ。まだまだじゃよ、蟲め」
バルドが、剣――〝燕降刀〟を構える。
「来イ」
バルドが一瞬で距離を詰め、剣を横に払う。
それを相棒が左腕を盾のように受け止め、弾く。
「ぬ!」
弾かれてがら空きとなった胴体に、相棒はボディブローを繰り出す――が、バルドの〝燕降刀〟によって直撃には至らない。
そこへすかさずバルドが跳躍し、剣技〝斬魔〟を放つ。それによって相棒の胴が袈裟斬りにされた。
「グガ!」とうめき声を上げ、相棒は地面に落ちる。
「さっすが、バルド爺だな」
バルドの剣技は、アラベルも感嘆する様子である。
バルドは、ギルドマスターの中でも最年長だ。その知識や技量は計り知れない。
その点だけで、何十年もの間ギルドマスターとして君臨し続けているのだ。
「さて、情報を貰おうかの」
彼は、倒れてる『相棒』に近づき、見下ろす。
「……話すことはナイ」
「少なくとも、この国を侵略する理由はありそうじゃが?」
「ナイと言ったダろうガ!」
刹那、相棒の刀傷が塞がり、引き寄せられ、切り離された半身と繋がる。
「これは再生……いや、もっと別の能力か……」
アラベルがぼやく。
アラベルの言ったことは正しい。
普通の『高速再生』や、それ以上の『肉体顕現』でもない挙動で、身体が再生したのだから。
これこそ、相棒の特異スキル――『粒子結合』の効果であった。
「俺の〝名〟ハ――〝ココン〟」
「――定義されし魔物か!」
「情報をヤルヨ」
「何?」
「ココに侵略しにきたノハ、人族を殲滅するためダ」
その言葉を口火に、アラベルが突撃槍を投げる。
ランスの重さは六キロなので、普通は何メートルも投げれないが――投げれるところ、ギルドマスターが化け物じみているのだ。
「邪魔ダ」
投げられた突撃槍を跳ね除け、アラベルを殴り飛ばす。
「ぐっ!」
「……貴様!」
ココンの〝魔纏拳撃〟が迫るが、バルドの〝燕降刀〟の剣技〝朧車〟を放ち、相殺する。
〝朧車〟はいわゆる回転斬りなのだが、それでも防ぎきれない。
ココンの〝魔纏拳撃〟で、バルドの左腕がひしゃげる。
「フム、悲鳴の一つも上げズに、剣を振り続けるトハ……敵ながら天晴ダ」
「お褒めに預かり光栄じゃな」
「はぁ――殴ったお返し、してやるよ!」
バルドの横からアラベルが飛び出す。
そろそろ終わらせるか――と、ココンが感じ、魔力を開放する
その瞬間――
――ゾワッ――
「「「――ッ!?」」」
魔力の圧が、強まった。
ココンのではない。
もっと、別のなにか――
越えられない強さの壁を越えた怪物が、目覚めたかのような。
――これは、まずい。
そう、三人は直感していた。
ズーンと、空が軋む。
カルミリスの空。雲一つない上で、黒い点がこちらを見下ろす。
「――何じゃ、あれは」
バルドが目を細める。
「コノ、魔力……」
ココンが感じた魔力は、圧ではない。――質だ。
ただ多いのではない。
ただ重いのではない。
地面がひび割れ、隆起する。
「バルド爺……これ、コイツよりヤバいぞ」
「分かっとる」
ココンの甲殻が震える。
恐怖ではない。本能が理解しているのだ。
自分より〝上〟が来る、と。
次の瞬間、遠方――神樹の方面から、蒼白の柱が立ち上った。
音はないのだが、確かに何かが起こったことは皆理解していた。
「……多分、定義でも完了したのじゃな……」
バルドの声は低い。
ココンの瞳が細まり、舌打ちをする。
「チッ、時間切れ……カ」
その背後で、風が裂けた。
「――間に合エ」
低く、冷えた声。
鎌を携えた影が、上空から落ちる。
――衝撃が走る。
地面が割れ、余波が刃となる。
その中心に立つのは――〝鎌持ち〟であった。
[観測対象外]は、ココンを一瞥する。
「相棒。最悪の事態ダ」
「ああ、分かってイル」
[観測対象外]がやって来たのを見て、バルドが、静かに剣を構え直す。
「アラベルよ、朗報じゃ。心強い味方が着いたぞ」
アラベルも槍を拾い上げる。
「そうみたいだな、バルド爺。これで生きて帰って、ボーナスがもらえるぜ」
ココンが低く嗤う。
「面白くナって来たナ……」
鎌持ちが、鎌を構える。
「笑ってイる場合ジャないゾ、相棒」
黒い点が地面へと降り立ち、[観測対象外]に宣言する。
「――やってやるよ〝鎌持ち〟……。この俺――世界樹〝自由〟が、相手してやるよ」
狂瀾怒濤の戦いが今、始まる。
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