侵略阻止計画 其の五
〝狂瀾怒濤〟という四字熟語が存在する。
主には荒れ狂う大波か、物事が激しく乱れて大荒れの状態という意味だ。
俺がガキンチョの頃には、創作で設定を練る時でも良く使っていた。凄く使い勝手が良かったのを覚えている。
では何故今、そんな言葉を思い出したのか。
目の前の敵を見れば分かる。
――俺は、『死の気配』を出していたカズサダよりも〝魔力〟は多かった。
きっと世界基準でも、多分〝桁外れ〟に位置する部類なのだろう。
しかし〝鎌持ち〟は、そんな俺をも軽く凌駕するほどの量だった。
「――ドウシタ? 怖気づいタのカ?」
空気が魔力で満ち満ちて、景色が歪んでいる。
あいつから溢れ出る〝魔力〟は、触れるだけでも焼けそうだ。
「誰がだ?」
「貴様がダ」
反射的に、〝竜の胴根〟を放つ。
根でしか行動できなかったときに編み出したが、人型でも放つことができるようになった。
不意打ち紛いの一撃、俺だったら避けられなかっただろう。
だが、〝鎌持ち〟はやすやすとそれを切り刻んだ。
「――は?」
《極めて危険です!! 速やかに、防御態勢を取ってください! 早く!》
呆然とする俺を差し置いて、ログさんが聞いたこともない言葉を大声で叫ぶ。
「戦闘デ立ち止まるとは、未熟でアるゾ!」
戦場で油断すると、ひどい目に遭う。それを知っていたはずなのに、立ち尽くしてしまった。
「まずい……!」
そう思ったのも束の間。〝鎌持ち〟のドロップキックが、俺の胸に直撃する。
勢いのまま、俺は真後ろへ吹き飛ぶ。
「グハッ! ……さ、再生が、遅い……?」
血っぽい樹液を出しながら、困惑する。
再生が遅い。この一つで、一瞬にして魔力攻撃だと理解した。
「……ログさんが、〝能力が効きにくいのは魔力攻撃の証〟って言ってたな……」
再生は働いている。だが、傷口が閉じる前に、何かがそれを邪魔している。
焼ける?
違う。
削られている。
「魔力を……纏わせてるな」
「ソウダ。未熟な神樹ヨ」
〝鎌持ち〟は依然として、余裕の態度を崩さない。
「さっきから神樹神樹と……我の名は――!」
「ないダロウ?」
……あ、名前ないんだった。
《名前をつけましょうか?》
この非常時に!? 冗談じゃないぞ。
……まあ、生きるか死ぬかの闘いだし、悔いないように名付けるか。
「いや、あるぞ」
「ナンダト……?」
「我が名は……〝リベル〟だ」
――リベル。
それは、ラテン語で〝自由〟という意味を持つ言葉。
もしくは、古代ローマでの〝豊穣の神〟の名。
前世は縛られっぱなしだった。
好きなことも、生きるために必要な事も、何もできない。
そして死んだ。
だからせめて、今世こそは自由に生きたい。そして、豊かな生活を送っていきたい。
そういう願いで名付けたのが――〝自由〟であった。
そう、俺が名乗った瞬間――――
急に、体が焼けるような〝痛み〟が走る。
痛覚無効を持っているはずなのに、それでも痛い。
「――ぐあぁ!?」
ろ、ログさん……これは、どういう――
《〝存在定義〟を確認。再構築を開始します》
「――は?」
ログさんじゃない。
ログさんとは全く違う、無感情で冷酷な音声。
まるでAIのような――ログさんとは比べ物にならないほど無機質な声。
「――〝定義〟が、始マったのカ」
激痛に駆られたまま、俺は戦場の最中……視界が暗転した。
◇◇◇◇◇◇
私と神樹との闘いは、つまらなかった。
恐ろしく弱い。
余裕を持って対処できるほどだ。
だが、神樹は自身を〝リベル〟と名付けたことで、神樹は倒れて〝存在定義〟が始まった。
「……コレは、イつ見てモ厄介ダ」
私はあの時を振り返る。
五百万年前の、あの日。
私は神樹の〝定義〟を目の当たりにした。
確か、〝断罪の剣樹〟であったな……。
――その神樹は、桁外れに力が増大した。
私では、傷一つも付けられずに敗北した。
あれ以来傷を負っていないが、万が一この神樹の進化が終わったら――
考えるだけでも、背筋が凍るのだ……。
「早急に殺ス!」
焦燥を胸に、私は鎌で神樹を切り刻む。
――はずだった。
刃は火花を散らしたまま――神樹には届かない。
奴の身体を包む光が、私の攻撃を邪魔しているのだ。
このままじゃ、倒せない。
早く『相棒』と合流して、粉砕せねば。
そう結論付け、私は飛翔する。
――必ず抹殺せねばならない――
――必ず破壊せねばならない――
――必ず遂行せねばならない――
私たちは、世界を壊さなくてはならない。
それが、私たちに与えられた〝自由〟なのだから。
自由を主に捧げることこそが、私達〝超戦士〟が成すべき使命でもあるのだから――
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