侵略阻止計画 其の四
兵士たちの剣と、虫の甲殻が弾き合う。
敵には、強力な固体が数体いるな。
真ん中にいる〝鎌持ち〟は勿論、そいつの隣にいる〝人型〟も負けていない。
「ソレジャア、相棒。一発、デカいのを頼ム」
滅茶苦茶遠いが、何を言っているのか分かる。
〝鎌持ち〟は告げ、まるで実験しているかのように佇んでいた。
『相棒』と呼ばれた者が、前線に出る。
『……何をするつもりだ』
「…………」
念話での問いには答えずに、『相棒』とやらは片手をかざす。
無言なのだが……この感覚は、ヤバい。
全身が、警鐘を鳴らしている。
『相棒』とやらが、何かをしようとしているのだ。
――戦線が、崩れる。ヤツの攻撃で――
俺の身体は、そう直感していた。
「そ、総員、退避せよ!!」
慌てて号令を出したのだが、もう既に遅かった。
「喰らエ――〝圧縮激突〟」
『相棒』が繰り出した技は、絶大なものだった。
音を置き去って、衝撃波がやって来た。
「うわああぁぁ!! う、腕が……足がぁ!」
兵士たちの悲鳴が聞こえる。数人は倒れたまま、ピクリとも動かずない。
少し見渡すと、指揮官は焦って司令を出している。
兵士は立ち上がろうとしても、立ち上がれない。
範囲は直線で狭いものの、食らった兵士たちの骨はボロボロとなる。
俺は既のところで食らうところだったが、無意識に発動した『鑑定』で理解した。
「――こりゃ、強いな……」
「今頃分かっタか、神樹。ダガ、貴様は何故人の方ヘ突くのダ?」
『相棒』が問いかける。
前までの俺なら、少し考えていたかもしれない。
だが幸い、時間はいくらでもあった。理由くらい考えるのなら、この理由を使う――
「人を助けた。たった一つの冒険者パーティだ」
「……それがナンダ?」
「我は昔から、止まらない性格だ――理由は、これで十分か?」
「アア! 十分に分かっタ。オレとお前では、協力できソうにナイ! デキナイなら、戦オウじゃなイか!!」
「ええ……戦闘狂犬の方ですか……」
ボソッと呟いたのを皮切りに、『相棒』が動く。
瞬時に距離を詰め、拳を突き出す。
拳を受け止め、背負投の要領で『相棒』を投げ飛ばす。
だが、スタンと『相棒』は軽やかに着地する。
「ハッ! 食らうと思うか?」
「――神樹ナラバ、この程度の攻撃は微風ニも等しいはずダガ?」
びふう……微風? 会話で『微風』を使うやつなんて初めて見たぞ。
そよ風――程度だろうな。多分、微風は。
それは置いておいて、俺は『相棒』の問いに答える。
「貴様、魔法を使うだろ? 我の考えを晒すことになるが、考えたのだ。『魔法を使えるなら、魔力を纏わせることもできるだろう』とな」
「……ソレは別にバレてもいい。さっさと闘うゾ」
「あー……それは、もういい」
――は? と『相棒』が素っ頓狂な声を出す。
「生憎だが、これは戦争だ。戦闘狂の方はプライベートで……私生活で戦ってほしい」
「ふザけるナ……。そんな理由デ――」
「それに、我の相手は〝貴様〟じゃないし、貴様の相手は〝我〟ではない」
「――ッ!?」
戦況というものは、一瞬にして塗り替えられるものだ。
空から落下してきた、老爺が一閃を放つ。
――キイィィィィン。
『相棒』の甲殻が、老爺の剣を受け止める。
火花が散りながら、『相棒』は動揺する。
「ナ、ナンダ!?」
「――おや、儂を知らないとは、知名度も落ちたものよのう……昔は〝鬼人〟と呼ばれ恐れていたのじゃが」
「爺さんだからじゃない?」
「――お主、これが終わったら覚えておくのじゃよ」
老爺と、若い男の声が響く。
「オマエら、何者だ?」
『相棒』は、二人の存在を知らない。
なんせ、ギルドマスターなのだから。
かといっても、俺も名前は知らないんだけど。
「む、自己紹介がまだじゃったな」
禿頭の老爺は、剣を鞘に収める。
赤茶髪の男が、突撃槍を取り出す。
「儂はギルドマスターの一人――〝バルド〟と申す」
「俺も名乗っておこう。同じく、ギルドマスターの一人――〝アラベル・フォーリンガム〟という!」
ギルマス達の覇気が、ここ一帯を支配する。
覇気を感じた『相棒』は、ニヤリと笑う。
「……ナルホド。これは、楽シメそうダ」
そうして、バルドとアラベル対〝相棒〟の闘いが始まるのだった。
◆◆◆◆◆◆
『相棒』とかいう奴はギルマスが相手してくれてることだし、俺は〝鎌持ち〟のところに行くかね。
敵の情報は大事だと力の度合いを鑑定ながら、俺は進む。
○名前:[鑑定できません]
○種族:[鑑定できません]
○称号:〝鎌持ち〟
――[鑑定できません]
「やっぱり、何もわからないな」
それほど、謎で強大な存在ということなのか、ただ単に、俺の『鑑定』の扱いが下手なだけなのか……。
《――それは置いておきますが、〝鎌持ち〟は間違いなく『超越』レベルに達しております。警戒してください》
分かったよ、ログさん――と応答し、目の前にいる〝鎌持ち〟と相対する。
「オ前が、神樹だナ?」
「そうだが……以前、会ったことがあるか?」
なんかどうも見覚えがある。
青い甲殻に、黄金の目。そして両手の鎌……。
なーんか記憶の奥底にあるような……?
そんな漠然としない、靄のような記憶がある。
「何の話ダ?」
本人も分からないみたいだし、まあいいか。
「一つ提案がある。和解しないか」
「断ル」
「――理由を聞いてもいいか?」
まさか即答されるとは思ってなかった。
無駄だとは思うが、時間稼ぎも兼ねて理由を尋ねる。
「ココを侵略スルことが、目的だからダ」
「それはカルミリス王国じゃなくてもいいのでは? 人の国でないといけないのか?」
「人でないとナラヌ」
意外だ。ダメ元で聞いてみても、思ったより答えてくれる。
だが、和解は決裂。戦って、国を守るしかなさそうだ。
「神樹。お前こそ何故、人を守るノダ?」
「ハハハ。お前が『相棒』と呼んだ奴からも、同じ質問をされたぞ。その時と同じ返しをしてやろう。〝一度、人を助けたから〟だ!」
たったそれだけだが、それでいい。
目的や目標なんてものは、《《必ず》》小さいことから始まるのだから。
「――モウイイ。死ネ」
そうして、侵略阻止計画は本格的に動く。
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